
営業力を超えた日本食研の流儀 フリーランスとしての心得
昨年は多くの出会いがあり、中には予てからお会いしたいと思っていた方との出会いが実現しました。嬉しい限りです。日本では、ご挨拶の際、最初にお名刺をお渡しするのが一般的ですが、この名刺がつないだ特別なエピソードをお話しします。
年末年始になると、忘年会や親睦会、情報交流会といった機会が増えます。短い時間の中で多くの方とお話しし、名刺交換をすることもありますが、人数が多いと、お名前やお話の内容を覚えるのが難しいことも。とはいえ、それを疎かにするのは言語道断です。
企業に属さない、バックに何もないフリーランスとして活動する私にとって、お会いした方のお名前やお話した内容をできるだけ覚えることは重要です。言うのは簡単ですが、実行するのはなかなか難しいものです。
関東で有名なスーパーY社の会長が「これぐらいの規模になると、パートさんの名前が覚えられなくなっています。これは由々しき問題です」と話しされて、私はこの言葉に考えさせられました。一人で仕事をしている私だからこそ、出会った方のお名前や会話の内容を覚えておくことが、何より大切だと改めて感じました。
日本食研との出会い
今回、名刺にまつわる学びを教えてくださったのは、「日本食研」という企業に所属していた方です。惣菜業界に携わる方なら、この企業の名前を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
一般の方はご存じないかもしれません。
そこで・・・
日本食研ホールディングス株式会社(Nihon Shokken Holdings Co., Ltd.)
調味料の製造・販売を中心に事業を展開する企業で、1971年に香川県高松市で「畜産加工研究所」として創業し、1973年に株式会社化されました。その後、愛媛県今治市に本社を移転し、現在は愛媛本社と千葉本社の二拠点体制を敷いています。
業務用たれの国内シェア約50%を占めるトップメーカーであり、年間約6,800種類のブレンド調味料を生産しております。
家庭用製品としては「晩餐館」シリーズが広く知られ、また、海外展開にも積極的で、米国や中国、台湾、タイなどに現地法人や工場を設立し、グローバルな事業展開を進めている企業です。
2023年9月期のグループ合計売上高は約1,377億円、従業員数は2024年4月1日現在で4,720名となっています。
日本食研のキャッチフレーズは「味の作曲家♪」であり、製販一貫モデルを採用している点が特徴です。さらに、愛媛県今治市にはウィーンのベルヴェデーレ宮殿を模した「KO宮殿工場」や、シェーンブルン宮殿を模した「シェーンブルン宮殿工場」など、ユニークな施設を有し、観光名所ともなっています。
このコマーシャルを見て、「あっ!」と思う方もいらっしゃるはずです。
「焼肉焼いても 家焼くな」
ユニークなコマーシャルとして、知られています。さらにここに登場している人は、社員だとか。それが本当なら、結構、安く仕上げているCMと言えるのかも(失礼なことを申し上げていますが)。
またCMでも登場する宮殿は、食研の工場でして、お客様は、この本社の近くにホテルのような宿泊施設があり、そこで泊まって、工場見学が可能とのこと。
営業スタイルの秘密
日本食研のこと、業界内、中でもタレメーカーの方々は口を揃えて「営業がすごい」といわれます。
単純接触効果を徹底している「食研」
ある企業で15年ほど開発を手掛けていた頃、いつも毎回、会議にいらして、開発を手伝ってくださる方がいました。最初の5年ほどは、いつもいらっしゃるのでその企業の社員と思いこんでおりました。
ところがです・・・
ある日、その方、赤いエプロンをかけておられまして
私「あれ…赤いエプロンなん」
Yさん「うちの日本食研のエプロンです」
うちの・・・つまり日本食研?
ということで、日本食研の方ということが判明したのが、5年経ってからのこと。つまり社員のように働いている。それが日本食研です。
スーパーの新店舗オープン時には、バックルームでお手伝いをする姿もよく見かけます。
こうした「頻繁に顔を合わせる」営業スタイルが、日本食研の強みです。
継続することの力
「99回、クライアントのスーパーに行って、商談成立しなくても100回目で成立することもある、だから100回でも101回でも行け」と言われているとのことです。
惣菜売り場での「ピカッ」の秘密
日本食研の営業力はもちろんのこと、商品力も見逃せません。その中でも特に注目されるのが「照り」、つまり『ピカッ』です。惣菜売り場で蓋越しに見える惣菜が、光を帯びて美しく輝いていると、自然と手に取ってしまう――これが『ピカッ』の効果です。
例えば、スーパーで惣菜売り場を訪れた際、『ピカッ』と光る商品を見かけたら、それは日本食研のたれを使っているかもしれません。この『ピカッ』が惣菜にとっての“身だしなみ”のようなものです。靴がピカピカだと身だしなみが整って見えるように、惣菜も『ピカッ』と光ることで、美味しさを感じさせるのです。

惣菜でも同様でして、『ピカッ』は大切なのでございます。

そして、この『ピカッ』が、お客様の潜在的な購買意欲を引き出す商品にもなりえます。
『ピカッ』を生む技術力
しかし、この『ピカッ』は、簡単に真似ができません。
例えば、「片栗粉でとろみを出すだけでしょ?」と思われるかもしれませんが、業務用の片栗粉には多くの種類があり、どのタイミングでどんな片栗粉を投入するか、仕上がりが全く異なります。
日本食研は、この『ピカッ』を生む技術を持ち、惣菜売り場での購買心理を深く理解しているのです。
他のメーカー、特に外食を主軸にしている企業では、この『ピカッ』を再現するノウハウを持たない場合が多く、それが惣菜開発におけるハードルとなっています。この点で、日本食研の強みは際立っています。
日本食研さんの営業はすごいと定評があるのですが、のみならず商品力、なかでも「照り」つまり「『ピカッ』が素晴らしい」と、他のメーカーが言われる所以でもあります。
ということで、日本食研さんにまつわる話は尽きないものです。
20年越しの感動を超えて
実は以前、私、その日本食研でセミナーをするようになりまして、仕事をはじめて20年たった頃でした。
事前の打ち合わせもあり、日本食研の部長との面談がありました。
私は全く覚えておらず、「初めまして」と言った感じだったのです。
しかしその部長は、背広のポケットから私の20年前の名刺を取り出し、「池田さん、以前、名刺を頂きました」と言われたのです。そして、どこで名刺交換したのかも鮮明に覚えて下さっていたのです。
これには、本当に驚きまして・・・
まず、私のようなまだ駆け出しだった者の名刺を持ってくださっていたこと。
さらに、私は大手企業に属しているわけでもなく、役職もない、しがないフリーランスの名刺を保管してくださっていたこと。
当然ですが、私の名刺を持っていることで、その方の昇進に役立つわけでもありません。
そのような者の名刺をわざわざ持参して、「池田さん、以前に名刺をいただきました」とおっしゃってくださった。
その姿勢には、正直、本当に感動しました。
フリーランスとしての心得だけでなく、人としての在り方について、学んだのです。
業界内では、食研さんについて、「値ごろな価格だから」「バックルームに常駐して商談につなげているから」「粘性が素晴らしいから」といった理由で商談が成立していると思われがちです。確かにそれらは重要な要素ですが、それだけではない、人としての思いやりや誠意ある行動が、この企業の本当の強みであると感じました。