メーカーの競争と協力:フリーランスと不可侵条約から学んだこと
お仕事を通じて、さまざまなメーカーさんとつながり、その中で多くの学びがありました。
スーパーや弁当専門店、外食企業では、自社で開発した商品を、最終的にたれのメーカーなどにコンペをかけることが一般的です。そして、一つの商品に対して2社、3社がたれを提案し、その中から選んで商品化する流れが取られます。
ある600店舗展開の企業のメニューカテゴリーには、煮物、サラダ、中華、カツ丼のタレ、焼肉のタレなどがあります。カテゴリーごとにメーカーの得意・不得意があるため、どのメーカーがコンペで勝つかは、企業側もある程度予想がつきますが、公平性を保つためにコンペが行われています。
たとえば、煮物では醤油メーカーが強く、サラダはマヨネーズの会社が得意です。また、焼肉のタレならN食研、といった具合です。
ある日、いつものように3社に同じ商品の提案依頼をしましたが、明らかに得意分野でないメーカーの提案が美味しくなかったのです。担当部長も首をかしげ、私もその歴然とした差に「どうしたのだろう」と驚きました。
その後、新参のメーカーが、そのような事情を知らず、あらゆるタレをコンペで獲得しようと試みた結果、他のメーカーから村八分にされてしまったのです。
親しくしているメーカーの方に「露骨すぎて、少し気の毒に思いますが、もう少し仲良くされた方が良いのでは?」と話したところ、「メーカー同士には、不可侵条約があるんです」と言われました。「不可侵条約?」と聞くと、「あえて良くない商品を提案し、得意なメーカーの分野を侵さないようにしているんです」と言われたのです。そのとき、メーカー同士が企業ごとの得意分野に基づき、暗黙の了解で競争を避けていることがわかりました。
その瞬間、思わず笑ってしまいました。通常、コンペではそのようなことはありえませんし、本来は行われるべきではありません。それをあえて行うとは。しかし改めて考えると、長期的には各メーカーが協力し合うことで、業界全体や企業の成長に寄与していたのかもしれません。とはいえ、その場では驚きと笑いが止まりませんでした。このような行為は、結果的に誰も不幸にしない解決策だったのかもしれませんが、今でもその出来事を思い出すと笑ってしまいます
私はフリーランスで個人として働いているため、どうしても「出し抜く」や「出し抜かれる」という競争の世界です。それでも、素晴らしい競合者に出会ったときには、背筋が伸びるような気持ちになり、不可侵条約のように互いに敬意を持ちつつ競争することの大切さを感じます。そのような競争の中でこそ、クライアントと私の間に気持ちの良い空気が流れることも多いです。これが、意外と重要なことではないかと思います。
このような考えに至ったのは、年齢を重ねたからかもしれません。若い頃は血気盛んで、よく怒ると言われたこともありますが、それだと人間関係に摩擦が生まれがちです。今では、エネルギーが少しずつ減っていることを感じ、無駄な衝突を避けるようになりました。そうした心境の変化が、冷静に物事を捉え、不可侵条約のような姿勢につながったのかもしれません。まだまだ修行が足りませんが。