Essay|本屋がなくなったら困る
少女漫画じゃないのだから、毎日を普通に過ごしていてワクワクが向こうから飛び込んでくることなんて、そうない。そうないけど本屋にはあるよなと、思う。
本屋を見つけるとたいして用もないのに、「何かあるんじゃないか」とふらり立ち寄ってしまう。昨日も本屋に立ち寄ってしまった。そこでは、正面入り口付近で科学フェア的な何かが催されていて、明らかに書店員さん達の手で彩られたカラフルな陳列に、まんまと引き寄せられてしまった。
見てみると「なにこれ。今の子どもたちはこんなに面白い児童書を読んでるの?」と驚くことしばしで、インターネットの検索だと出会えなかったであろう分野だった。
予期せぬことは素晴らしい。そう、だから本屋がなくなっては困るのだ。
そういえば昔写真展に行った帰りに、六本木の青山ブックセンターに立ち寄り、その本屋の奥の奥にある写真集コーナーで片っ端から次から次へと写真集を読み漁っていたら、ふと背の高い欧米の男性と目があった。
「ちょっと夢中になりすぎたかな」と恥ずかしくなって微笑んだら、おもむろに海外写真家の超絶分厚い写真集を手渡された。Try it!と言われて受け取ったそれは、アート風の装丁ではあるものの、女性ヌード写真集で初対面の男性から受け取るものとしてはなんとも言えない気持ちになった。
「え、なんだろ写真撮った本人なのかな。俺の写真かっこいいからみて的な?って多分違うな」「純粋に俺のオススメの写真家のやつってこと?」「いやはや荒手のセクハラなんかな。そうだったら新しいな」などとくだらないツッコミを頭の中でぐるぐるしながら、彼の見ていないところでそっと、受け取った写真集を棚に戻した。さすが六本木面白いな、本屋ってこんなことも起きるんだなと思った。そんな六本木の青山ブックセンターは2018年6月25日に38年の歴史に幕を下ろした。とても大好きな場所だった。
予想外の出来事は素晴らしい。そう、だから本屋がなくなっては困るのだ。
形ある本を囲んでそれぞれが足を運ぶ。知らない者同士がうっかり同じ本を手にしてしまって「あ、すみません」みたいな出会いが、多分どこかで生まれる場所だ。ノッティングヒルだけじゃない、世界中のどこかで。
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