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Essay|ありがとうギンレイホール
「映画鑑賞の最後尾はこちらになります」
元気の良い声が聞こえる。飯田橋駅を降りるとB4出口はすでに行列ができていてスタッフの人が誘導している。私が訪れた日は雨。傘袋を受け取りながら、入れ替えの列に並ぶ。中に入るとこの場所が大好きなお客さんでいっぱいだった。
白髪にメガネの老夫婦、飲み物を持参されている黒いワンピースの女性、シネマパスポートを手にしたミドル男性。えんじ色の椅子に腰掛けながらギンレイホールのこの空間を惜しむように、写真を撮ったり、見渡したり、思い思いに過ごしていた。
2022年11月27日で、名画座ギンレイホールが閉館になる。
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ブーーーーー。昔からずっと変わらない映画開始のブザーが鳴る。幕間ではこれまでのギンレイの映像が流れて胸がいっぱいになる。あぁここでみる映画はあと2本だけなのかと感慨に浸りながら、これまでこの場所で観た映画のことを思い出していた。
ギンレイホール、最後の2本立て上映~(11/19~27)、本編前に流していた、オリジナル映像です✨
— 名画座ギンレイホール (@ginrei_hall) December 3, 2022
ご来場が叶わなかったお客様にもご覧頂きたく、載せてみました☺️当館の思い出として、お楽しみ下さい🎵(SNS更新していられる間に間に合って良かったです💦)#ギンレイホール #閉館 #オリジナル映像 pic.twitter.com/5GNgO8rgLV
振り返る私を、バスに乗せるみたいに1本目は始まった。
『君を想い、バスに乗る』(監督:ギリーズ・マッキノン、主演:ティモシー・スポール/2021年)
妻を亡くした90歳をすぎたおじいちゃんが、最後にやり残したことを胸にイギリスをバスで横断するロードムービー。
20代の頃と今を交差するように映画は時間を行ったり来たりする。
最愛のメアリーとの夫婦の間には、ある悲しい出来事があって、まるでそのことに蓋をするみたいに夫婦生活を過ごしてきたけれど、彼女を想いながらバスを乗り継ぎ1350キロ。愛を確かめるようにランズエンドへと向かう。
思い返せば、私たちにはうまく愛せなかった時間ばかりが頭をよぎる。あの時どうしたら良かったのか、答えは出ないまま時間だけが過ぎていくようなそんな時が。
大切だ、と思っていたのに、本当に大切にできていたかな。
『マリー・ミー』(監督:カット・コイロ、主演:ジェニファー・ロペス/2022年)
ギンレイで最後にみる映画は、ポップスターと数学教師の恋を描いたラブロマンス。
ジェニファー・ロペスの圧倒的な歌唱力と華やかさ。幸せになることを諦めないこの作品を最後に見れてよかった。
設定も始まりもかなり現実離れしたものだけど、何かが変わって人生が豊かになっていくその本質だけはどこか信じていたくなる。
「人生って何があるかわからない」って笑っていられるようなそんな驚きに満ちた出会いを。幾つになっても、何かに期待して生きるって、いい。
この場所からもらったもの
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2022年9月5日、Twitterから流れてきたギンレイホールからの閉館のお知らせに思わず声が出た。
私が映画が好きになったのは、大学生の頃に早稲田松竹とこの飯田橋ギンレイに通っていた時間があったからだ。自分では見つけることの出来ない、さまざまな映画に出会い、どんどんハマっていった。学生の頃ほど入り浸れなくなってしまったけれど、それでも時々、この場所に癒されていたから、やっぱりとても寂しい。
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この場所で、何度背中を押されてきたかな。大好きな映画館があるから、その街が大好きになる。そんな場所だった。
この豊かさが、またどこかの場所で必ず灯りますように。これまでありがとうございました。また会える日まで。