手探りの日々|夫の独立開業つれづれ日記 vol.4
本格的な開業に向けて、準備と助走期間を設けると言って、夫は退職日の2週間前から有給休暇を取得した。
叔父の工場をそのまま譲り受けたため、自分が仕事しやすいように片付けることが先決だった。
ありがたいことに、今までの取引先も譲り受けた。叔父が一線を退き、代わりに夫が引き継げば、取引先も一から外注先を策定しなくていいし、夫も、出だしから営業をかけて仕事を取ってこなくてもいいのだからありがたい。
取引先へ新規立上げの挨拶に行った際に、腕試しだと言われてさっそく仕事をもらって帰ってきた。今までに扱ったことのないデリケートな材料らしく、図面を眺めながらうなっていたが、どこかワクワクと楽しんでいる雰囲気がうかがい知れた。
まだ片付け途中のまま仕事を始めたため、工具や機械の使い方など、使いたくとも所在がわからなかったり、加減がわからなかったりと、そのたびにあちこちを探しながら文字どおり手探りで作業しているらしい。
夫の父も現役の頃は同じような仕事をしていたようで、ここ最近、仕事の内容だったり工場の機械のあれこれだったり父子でいろんなことの会話が増えている。
私には会話を聞いていてもチンプンカンプンだが、やはり会話はちょっと楽しそうで雰囲気がいい。
全部の人がそうではないが、とかく同性の親子同士はぶつかることが多いのではないだろうか。
私もご多聞にもれず、母とソリが合わず一緒に生活していた頃はなにかとイライラしていたっけ。他人が聞いたら「え?こんなことで?」と首を傾げるほど具にもつかないような些細なことなんだけど、イラッと反応してしまうのだ。夫もきっと同じなのだろう。
他人である嫁の私が見聞きするに何でもないような言動なのだが、夫はイラッと反応するときがあるという。だから夫は、どちらかというとお義父さんとの会話を軽く避けている節があった。必要最低限、用件と返事のみで済ませていたように思う。
それがどうだろう。独立開業し始めたここ最近、手探りで仕事をしているせいか、主に仕事のことでだが楽しげな会話が夕方の食卓を飛び交っている。
会社勤めしてギスギスとしていた頃より、ずっといい雰囲気だ。
先日も、お義父さんは2週間前に退院したばかりだったが、腰が痛いと言いながらも夫からコンプレッサーの修理を頼まれて工場へと足を運んで修理をしていたようだ。
そんなふうに手探りで自分のスタイルや方向性を見つけていくうちに、今までにはなかった化学反応が起きているように思う。
私はといえば、規則正しいサラリーマン生活に合わせて生活時間を送ってきたが、タイムカードもなければ有給休暇もなく週休2日でもなくなった夫の生活に合わせているため完全に曜日感覚がなくなった。
折しも学生は夏休みだ。子供たちが家に居るのも、曜日感覚マヒに拍車をかけている。
私も手探りの日々である。
vol.5へ続く。
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