群衆
足早に、通り過ぎる人々。
笑顔で、誰かに手を振る人。
立ち止まり、スマホを覗き込む人。
電子掲示板と、睨めっこ中の人。
ここは、都会の駅。
無数の人間が行き交う場所。
そのエスカレーターの左端に、私はいる。
片側を、すっぽり開けておくのは、この街ではお決まりのルール。
皆、クールな顔で整列し、ただ、前一点を見つめている。
人混みの中、窮屈さを感じる私。
だが、それと同時に、不思議な安心感に包まれる。
誰も、私のことなど、気にも留めない。
「そう。私は、そんなちっぽけな存在。」
「この世界を、構成する粒子の一部。」
皆、それぞれの道の上を、淡々と歩いている。
さて、この同乗も、そろそろお別れの時間だね。
音もなく静かに、最後の一段が、吸い込まれていく。
そして、目の前に広がるのは、途切れることのない賑わい。
見慣れ始めた中央改札口の光景。
「いってらっしゃい。」
———— “一瞬の交錯”。
今日、たまたま、この場所に居合わせた人たち。
知らぬ誰かの背中に、そっと呟き、私も、また、旅立つ。