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鯨骨生物群集絵本『クジラがしんだら』~なぜ、いつ、思いついた?

命を終えた大きなクジラが深い海の底に沈んでいったら、何が起きる?--クジラの命の終わりから始まる、ふしぎな生きものたちの命のつながりを描いた絵本『クジラがしんだら』を作りました。

本について詳しいことはこちらを見ていただくとして……

わたしがなぜ、いつ、この本を作ろうと思ったか、記しておこうと思います。

この本のテーマである「鯨骨生物群集」の存在を知ったのは、2010年7月のことでした。わたしは日本の海洋研究を牽引する研究所、海洋研究開発機構の中で催された小さなシンポジウムと懇親会にお邪魔していました。

BBQの肉をもぐもぐしながら、たまたま近くにいた初対面の方に「どんなご研究をされているんですか?」と聞いたら、「鯨骨生物群集の研究をしています」と。ゲイコツセイブツグンシュウ?

それが、鯨骨生物群集研究の第一人者、藤原義弘さんとの出会いでした。

え、クジラの遺骸で生きるって、食べ終わったらそこにいた生きものたちはどうなっちゃうの? 次の食べもの、近くにないよね? 

立食の会では長時間にわたって藤原さんをお引止めするわけにはいかず、でもわたしの頭の中には、命綱なしで真空の宇宙に出かけていこうとする宇宙服の人の映像が浮かび上がってきて消えないのでした。

いつかこの鯨骨生物群集で本を作ろう。ひとり勝手にそう決めたものの、何をどうしたら本にできるのか、まるで想像がつきません。

藤原さんとはその後もご縁が続き、鯨骨生物群集以外にもさまざまなご研究の話を聞かせていただいたり、深海のサメ調査に同行させていただいたり。ただ、鯨骨生物群集の本の企画は「いつか必ずつくりたいと思っています」とお伝えするにとどまっていました。自分の力ではまだ、企画を出版社に通せる自信がなかったのです。

いよいよ「やるぞ」と決めたのは、それから10年もの年月が経った、コロナ禍の2020年でした。藤原さんにあらためてじっくり取材をさせてもらい、絵本の原稿を書き上げ、その原稿と企画書を携えて、『いないいないばあ』や『おしいれのぼうけん』で知られる老舗の児童書出版社、童心社の編集者さんに会いにいきました。

編集者さんはすぐにこの企画を気に入ってくれました。「どんな方向で作ろうか」「どんな画家さんにお願いしようか」、エキサイティングな打ち合わせを何度か重ね、社内の会議にかけていただいたところ、めでたくGOサイン!

その後、いろいろな事情でうまく進まず、絵本を出せるかどうかも危うい時期すらありましたが、編集者さんの献身的なご尽力によってこの絵本は見事に息を吹き返します。

そして2024年の9月、満を持して世に出ていくこととなったのです。無事の誕生はなにより喜ばしいことですが、まるで手がかりのない深海に旅立ったホネクイハナムシの赤ちゃんのように、不安な気持ちも半分。この本が、誰かのもとに無事に届き、その人の心に小さな根を生やすことができますように。

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