ライブの“感動”はどこから生まれるのか?ユニゾン生配信ライブ/斎藤宏介を観て思ったこと
UNISON SQUARE GARDENが、7月15日、生配信ライブ「USG 2020 “LIVE (in the) HOUSE”」を開催した。
おそらくバンド史上初(?)となったこの配信公演は、ファン投票によるリクエストをもとに、バンド側でセットリストを決定するというもの。鈴木貴雄が頭にカメラを装着してドラムソロを披露したり、本公演に向けて準備しているメンバーの姿がエンドロールの映像として上映されるなど、オンラインだからこそ実施できたと思われる仕掛けがいくつかあった。…が、それ以外は割と平常運転だった。ベース・田淵智也はステージ上を激しく動き回りつつ太くうねる低音を鳴らし、鈴木は満面の笑みで、時には立ち上がりつつ熱いショットをかます。あまりにいつものライブすぎて、物理的な距離をさほど感じなかったし、生ライブを観終えた時のように、充実感で胸がいっぱいになった。この日のために用意されたハッシュタグ「#USG2020」も、Twitterで一時トレンド1位に。視聴者にとっても、それだけ思いを発信したくなるような配信だったのだ。
ただひとつ個人的に気になったのは、斎藤宏介の喉のコンディション。本人も終演後のMCで述べていたが、序盤から明らかに高音が出しづらそうだった。通常であれば天まで突き抜けるようなミックスボイスを悠々と出してくれるのだが、この日はややつらそうで伸びと張りが普段より少し足りない感じ。しかし体調が悪いわけではなく、あくまで発声の状態がいつもどおりでないというだけのようだったので、そこは安心した。
そういうわけで前半は若干心配しつつライブを観ていたのだが、それが一気に吹っ飛んだ瞬間があった。私自身も票を入れた「箱庭ロック・ショー」でのワンシーンである。
2番Bメロを歌い上げたあとの間奏で、しばし田淵と向かい合ってカッティングをキめる斎藤。やがてステージ前方に歩み出て、今度はステージ上のカメラマンと相対する。カメラは華麗な手捌きをたっぷり映したのち、元の立ち位置に戻る寸前の彼の表情を拾った。はちゃめちゃに弾けた笑顔が、そこには映し出されていた。
私の憂慮を打ち消したのは、そのたった一瞬の笑顔だった。そもそも私がそれまで心配していたのは、彼の体調面はもちろんだが、「斎藤自身が気持ちよく歌えていないのでは?」という、彼のメンタルについてである。しかしその笑み一つで、それが杞憂だったことを思い知った。簡単に言えば、「なーんだ、斎藤さん楽しんでるんじゃん!じゃあ私ももっと思いっきり楽しませてもらいまーす!」という思考になったのだ。
この一連の自分の心の動きを振り返って思うのは、わかりきっていたことではあるが、やっぱりライブの観客にとって、演者自身が楽しそうに演奏している姿が観られるのは大きな御馳走なのだ、ということ。演者と観客の間にはいつも潜在的に何かしらの相互作用がはたらいていて、あちら側が演奏中に明るい表情を見せたり、熱意のこもったプレイをしてくれると、自然にこちらの気持ちも上向く。ライブ会場に足を運んだことがある人で、それを経験したことがない人はいないはずだ。ユニゾンは何よりも“自分たち3人が楽しむこと”を大切にしているバンドだし、MCで発する言葉こそ少ないが、表情や仕草、音、歌い方などで大いにその感情を伝えてくれる。
今回の配信では、ユニゾンのその通常どおりの素直さに救われたような気がした。また、たとえ一つ順調にいっていないことがあったとしても、ポジティブな心意気でカバーすれば“最高”は作れるんだとも感じた(終演後のMCで鈴木が斎藤に投げかけた言葉の通りだ)。
…話は変わるが、終盤でマイクなしで「フルカラープログラム」のラストサビの一部を歌い、艶やかな歌声を見事に会場に響かせた斎藤には恐れ入った。調子が悪いからといってどんどん萎縮していくのではなく、悪い中でも後半のあの瞬間に自分の喉の状態のピークを持っていったような意思を感じ、やはり素晴らしすぎるボーカリストだなと震えた。格付けするなんて大変おこがましいけど、でも本当に、この国でトップクラスのボーカリストだと思う。いや、そう思わざるを得ない。
この配信ライブ、8月も実施してくれるという。斎藤は「もっとかっけえUNISON SQUARE GARDENになってライブできたらなと思ってます」とかなりの意気込みを語ってくれたので、期待しかない。そして、9月30日に発売が決定した新アルバム『Patrick Vegee』も言うまでもなく楽しみだ。
結成16周年目を迎えた彼らの快進撃は、きっとまだまだ始まったばかり。ロックバンドに痺れる1年が今、ようやくスタートした。