TSUNAGARI〜八芳園の婚礼料理〜
結婚の歴史をさかのぼってみるとおもしろそうだなと思うがどうだろう。わたしの好きな『源氏物語』では妻問婚の模様が詳細に描かれている。祖母の時代にはお妾さんが当たり前のようにいたり、両親の時代には「仲人」を立てての結婚があったり、今ではアプリで出会った二人が結婚することも当たり前になった。
チャペルでの結婚式に憧れた幼少期を経て、やがて結婚への執着は影をひそめたかに見えたわたしもおよそ3年前に結婚することとなった。まず話し合われたのは「結婚式を挙げるか否か」という問題だった。結婚式はできれば挙げたくないと言った夫に対し、わたしは結婚式を挙げたいと主張した。理由はさまざまあったが、総合的に判断してわたしは結婚式に憧れていたと言って間違いはないだろうと思う。
祖母のことも大きかった。「孫は女の子四人、全員の花嫁姿を見てから死ぬのがバーバの夢」とよく言っていたのに、従姉も妹も結婚式を挙げなかったのだ。孫の結婚式に出たいという夢を叶えてあげたかった。それに「こーんなに分厚い草鞋みたいなステーキを一度でいいから食べたい」という願いも、ついでに叶えてあげられると思った。
会社の同僚でもあるわたしたち夫婦は、会社関係はいっさい招待しないことをまず決めた。同期の結婚式に数々参列するなかで、偉い人のスピーチは長くなりがちで、本心からの言葉が聞けるというわけでもなく、参列する側としてもどうしてもオフィシャルなイベントという感じがして楽しみきれないと感じていたからだ。
主賓はおかず、乾杯のスピーチは夫の友人にお願いした。披露宴の開始前の挨拶は夫だけでなくわたしもマイクを持って話すことにした。互いの家族の出番が平等になるように配慮した。余興は頼まなかった。どちらかが目立っていると、目立たない方の側のゲストが肩身の狭い思いをすることがあるからだ。
そんなふうにして挙げた結婚式は、わたしの人生の中でも五指に入る「いい思い出」の一つなのである。もう2年経つのにしょっちゅう写真や動画を見返しては幸せな気分に浸るのが癒やしにもなっている。
祖母に「草鞋みたいなステーキ」は食べさせてあげられなかったけど、後から従妹に聞いたところでは、従妹の分まで肉料理を平らげたらしい。
八芳園には結婚式当日の料理のレシピが保管されていて、先日2年ぶりに堪能してきた。「TSUNAGARI」というタイトルのついたコースだ。ベーシックな和洋折衷料理にもかかわらず、ゆっくり味わってみるとどの料理も本当においしく、「こんなにおいしかったっけ?!」と目を丸くしながら、久しぶりに食べる楽しさを感じながら、しばし歓談を楽しんだ。