1960年代のハッカーたち
この回、どっちのネタを先に出すか?で悩みました。あれこれ考えたんだけど、結局、このネタを採用しました。
史上初の「AI倫理」論争を追って(3)
人工知能の父として有名なジョン・マッカーシーは、ジョゼフ・ワイゼンバウムの著作にもっとも反発した人物の一人ではないかと僕は想像しています。それはマッカーシーの書評『An Unreasonable Book』の極めて批判的な内容からも明らかです。きっと彼が愛したAIラボのならず者たちを、ワイゼンバウムは事もあろに「強迫的なプログラマー」と侮蔑的に表現したことに激怒したのは間違い無いと僕は考えています。実はワイゼンバウムの著作は、ハッカーと呼ばれる異能者およびその集団が初めて登場した書籍としても知られています。1960年代から70年代のMITのAIラボ周辺の特殊な状況を多少は理解していないと、それを暗黙の前提としているようなマッカーシーの書評はわからないことだらけになってしまうでしょう。
そこで今回は、MITのAIラボを(好意的に)紹介している書籍として、スティーブン・レビーの『ハッカーズ』を紹介します。
ちなみに日本語版は工学社から(今も)出版されているようです。目次はこちら。
MITのAIラボでのハッカーの生態が描かれているのは第1部ですが、エピローグでは、多くのハッカーがAIラボから巣立つ中、たったひとり残ったリチャード・ストールマンがGNUプロジェクトを始めるまでが語られています。余談ですが、第2部では場面が変わりアップル・コンピューターが創業するまでのストーリが語られます。若き日のスティーブ・ジョブスの嫌われっぷりが印象的なので、余力のある方は是非確認してみてください。
第1部の話に戻って…
舞台は1950年代末のボストン、ケンプリッジです。このあたりはMITとハーバードのキャンバスが広がる典型的なアメリカの学生街です。ハーバードとは異なり、全米の理系エリートが集まるMITですから、今で言うオタクも多数含まれてまして、その中には大量の大型キャビネットに山ほどの電子回路が詰め込まれて、ビルのフロアひとつを丸々占拠していた当時のコンピュータの威容に魅了される輩もいます。彼らがハッカーと呼ばれる異能集団に変わっていく過程を描いたのが第1部です。マッカーシーは彼らにプログラミングを教える先生として登場します。ハッカーたちは「マッカーシーおじさん」と呼んでいたそうで、彼らの才能と能力を理解し、事あるごとに彼らを擁護してくれる(オタクが引かれてしまうのはいつの時代も同じ)人気のある先生でした。
この第1部を語り始めると、僕は終わらなくなってしまうのですが…
この本はとにかく登場人物が多いです。それが著者のスティーブン・レヴィーの作風なんですが、読んでいると混乱するので同書の Who'sWho を切り取ってこのベージを用意しておきました。
なにしろ1984年に書かれた紳士録ですので、今では完全に忘れ去られている人物がほとんどです。が、Wikipedia 英語版で調べてみるとページが存在する人物が結構いまして、ベストセラーとなった同書の影響力を再確認する思いです。ちなみに同書はオライリーから出版25周年の記念版も出版されています。
僕はこの本で初めてジョン・マッカーシーの存在を知ったので「穏和な人柄で、わかってくれる先生」のイメージを持っていましたので、彼のワイゼンバウムの書籍に対する書評を読んだ時、マッカーシーという人物の別の側面を見るようでビックリしました。(つづく)