建築と親しむ:目地と割付
建築の楽しみ方というのは人それぞれですが、楽しみ方の一つに目地を見るというのがあります。
初回から地味なところでもうしわけないですが、そもそも目地とは何かと云いますと、素材と素材の継ぎ目のことで、身近な例だと上の写真のような石やタイルの目地があります。
あくまで個人的な好みの話ですが、この目地がしっかりと揃っている建築を見るのが好きです。
「目地を揃える」と言うと非常にシンプルで簡単そうに思えますが、部材の幅と間取り、下地の厚みなどをいろいろ吟味した上で異なる空間を繋いで目地を揃えていくというのはなかなかに大変かつ地味な作業になります。
予算が潤沢にあり、都度特注サイズで材料を調達できるのであれば話は別ですが、一般的な住宅の設計などをしていると、基本的には既成品の建材を使い、一般的なモジュールで間取りを構成しますので、必ずしも目地を揃えられるものでもなく、その場合はどこを揃えてどこを外すかという取捨選択が必要になります。
また、施工上全く逃げ(施工のズレに対する余裕)の無い図面というのも施工者の心理的ハードルを上げることになってしまい、無用なコストアップに繋がる可能性もあるため「最低限ここは揃えてね」という指示で現場が進んでいくというのが実情ですが、その指示も守られずに施工されることもあり、かといって性能に問題があるわけでもなく生活にも全く支障がないところでやり直させて工期を伸ばすのも何か違うような気がしてモヤモヤすることもたまにあります。
そんな感じで日々苦労している目地がきれいに揃っている建物(特に大きな建物)を見ると気持ちが高ぶってしまうわけです。
それではこれまでに高ぶった事例をご紹介します。
パリの国立図書館(設計:ドミニク・ペロー)
ウッドデッキの割付と窓の幅を揃えて、設備の部分でもあるグレーチングも同じグリッドに合わせてありとてもわかり易い例かと思います。以降の事例も同様ですが、撮影箇所以外もきれいに整理されているので現地でいろいろ見ていただけると幸いです。
豊田市美術館(設計:谷口吉生)
トップの画像もこの建物ですが、床面のタイル、壁のタイル、壁や柱の位置などがきれいに整理されています。日本で最も好きな建築かもしれません。
京都国立博物館(設計:谷口吉生)
豊田市美術館と同じく谷口さんの設計で、壁、タイル、手摺、照明などが気持ちよく揃っています。このように少し離れた要素での目地の通りを見つけると心躍ります。
東京都写真美術館(設計:久米設計)
2階手摺のガラス目地と1階のタイル目地が揃っているのも偶然ではないはずです。
東京国際フォーラム(設計:ラファエル・ビニオリ)
建物自体が局面で構成されていても揃えるところは揃えているという例です。
タイルとコンクリート柱、天井までは一般的ですが、奥にある局面の手摺の割付もしっかりと揃えられています。
龍安寺(京都)
多少方向性は変わりますが揃えることに関しては日本建築も古来から一般的で、気持ちの良い空間になっています。
目地や割付というと皆さんご存知安藤忠雄氏も外せないですが、何故か自分で撮った写真がない…
ただ、目地が揃ってなくても良い建築というのは多々あり、例えばソウルにあるDDP(設計:ザハ・ハディド この曲線にしてはかなり揃えている方ですが)なんかもとても楽しい建築物だと思います。
弊社事例では個人住宅が主で、上にも書いたように何でもかんでも特注サイズで合わせていくのも非効率なので、無理のない範囲で揃えています。
森に降りる家
この事例は比較的スケールの大きい空間があり、羽目板で天井と壁を構成する際に窓の位置などを合わせています。
既存のサッシはそのままだと寸法が合わないですが、特注寸法にするわけではなく、本体をやや大きめの既製サイズで発注して枠などを隠しながらモジュールに合わせています。
外壁側もルーバーピッチを合わせたりと、かなり計算した事例になっていますが、実は図面に書くことはそれほど難しくなく、図面通りにきっちりと施工してくれた大工さんに感謝です。
庭見る小居
こちらの事例はタイル割付の一例で、キッチンは75x150のタイルを切ること無くレイアウトできるように周囲の寸法を調整しています。
浴室、洗面脱衣室はそれほど難しい話ではなく、普通にタイルの位置を合わせているだけですが、1階の床が全面タイルで目地が続いていくため、トイレのセンターを基準にして浴室まできれいに納まるような割付で考えています。
ちなみに、写真左側にタイル壁の並びで収納の扉があり、こちらも当初はタイル目地に合わせた高さにしていたのですが、何かちょっと気持ち悪かったので少しずらしています。
このように、一見非常に地味な目地ですが、揃えるにしろずらすにしろ建築に与える印象はとても大きいので、いろいろな建物で目地の通りを気にしてみてはいかがでしょうか。
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いつか家を持とうと考えてる人、リフォームを考えている人に何かしらのヒントになるかと思います。
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