テクノ新譜試聴メモ:2022-04
先日、いつものようにBeatportをチェックしていたら、DJ Misjahの90年代を代表するレーベルのひとつX-TraxとそのサブレーベルX-Subのほぼ全てのバックカタログが、Armadaレーベルからデジタルリイシューされていることを知りました。見てみると同じオランダの名門ハウスレーベルWorkなども網羅しているようで、大小さまざまなオランダ周辺のダンスミュージックが一元的に収集されている。Twitterでざっと下記のツリーにまとめました。
発売年もちゃんと当時のものが反映されているようだから、古い順で眺めていくとオールドスクールなハウスからシカゴハウスを経たハードミニマル、一方ではダッチハウス、ダッチトランスと爆発的に多様化していく90年代から00年代初頭のオランダ地域の4つ打ちダンスミュージックの変遷が俯瞰できる。この時代のデジタル化されていないレコードがまだまだ無数にあることを思うと、これは大変史料価値の高いものです。
実際こうしたアーカイブがいつ出たのかは、特にレーベルサイドによる説明など調べてもよく分からなかったけれど、一部ジャケット画像にクレジットされているのが総じて2022年なので、最近の動きであることは間違いない様子です。既に何度もレーベルを変えてデジタルリリースされているOlav BasoskiのSamplitudeなどの既発の音源も含まれるものの、今回初めてデジタル化される作品もそれなりにある気がします。
個人的な好みでピックアップするなら、まずUmekの初期作品、
かわいい似顔絵の描かれたクリアヴァイナルだったX-Subの隠れた快作、
もちろん独自のアシッド解釈を究めていたDJ Misjahの90年代の作品は全部おすすめです。"Money"とかね。わたしはこの辺だいたいレコードで持っているから改めて買わないけど、今使いそうな曲だけは買っておこうかな。
以下、4月の新譜から。
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Mark Broom - 100% Juice [Rekids]
マークブルームが気合の入った骨太テクノアルバムを出していた。全曲使えるシャキシャキしたパンピンなツールトラックで、控えめなコードやスタブが彩りを添える。もう本当に熟練の職人のやつで、知る人ぞ知る町中華のチャーハンというか、お店でしか食べられない味なのだ。何か新しいことに挑戦しているわけではないけど、こうしてアルバムにまとめられると、そうそうこれこれ、となる。
DJ Emerson - Notorious Smokers (Markus Suckut Remix) [Micro.Fon]
いつもながら渋かっこいいMarkus Suckutのかっこいいリミックス仕事。ダビーなトリップホップ風レゲエの原曲を、低音から立ち上がっていく重心の低い4つ打ちのグルーヴへうまく変換している。暗闇でストロボだけチカチカしている感覚がいい。
Calibre - Turtle Duv [The Nothing Special]
"Double Bend"は、多作なことで知られるドラムンベースのCalibreがCraig Richardsのレーベルから出した2枚目のアルバム。もはやジャンル不明のダウンテンポでダビーなゆるい空気がとても良く、上に挙げた"Turtle Duv"なんかは、アイデア次第ではディープなテクノのDJで使ってもおもしろそう。
JC Laurent - Intercept [Adroit]
ニースのDJ、JC Laurentの新曲が良かった。スイスのAdroitレーベルによる若手コンピレーションに提供されたもので、凝った音選びと空間的に広がるサイケデリックな音像が気持ちいい。
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今月取り上げたトラックはSpotifyのプレイリストにまとめてあります。