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テクノ新譜試聴メモ:2022-07

最近のテクノ関連の話題からいくつかピックアップ。

7月9日には、かつてのLove Paradeの流れを汲むRave The Planet」パレードがベルリンで開催されました。2010年に起きた不幸な事故によって歴史の幕を閉じたLove Paradeが、数年前からDr. Motteらの働きかけによって別の名前で復活を目指しているとは聞いていたけれど、ようやくですね。

当日はARTEのカメラが入って複数のフロートを跨いでYouTube生中継が行われ、そちらは現在はアーカイブは視聴不可になっていますが、別の動画がたくさん上がっている。なにしろ90年代と違って、みんながみんな高解像度の動画撮影ができる端末を持っている時代! 6時間にわたって路上視点からフロートを追いかけている臨場感たっぷりの記録もある。楽しそう。

公式発表では30万人が集まったとのことで、このご時世によく実現したものだなあというのと、やっぱ画面を通してでもあの憧れのラブパレードの復活の様子に熱くなってしまう。25年前のアンセムがかかる場面もあってエモくなっちゃった。

時期を同じくして、ドイツの大手メディアDWがLove Paradeの歴史をごく短くまとめたショートドキュメンタリーを公開しており、こちらもおすすめ。

残念なトピックとしては、21日にはテクニークの運営会社の破産が話題になっていました。7月14日からオンラインショップ上ですべての業務を停止している旨が告知されており、動向が不安視されていたなかでの一報。

長く続いた宇田川町のリアル店舗を2020年8月に閉鎖したあとは、通販需要に応える形でSNSを積極的に利用したオンラインでのキュレーションを進めていたほか、PARCOでのポップアップストアもあり、時代に合わせた業態で柔軟にやっているんだな、くらいの感覚でいたのが…やっぱり厳しかったのですね。それはそうだよ。ヴァイナル、昔は一枚1,000円かそれ以下だったのが今は2,000円以上なんでしょう。誰もがUSBでDJする時代、物価高・燃油高に加えて昨今の円安。とうの昔に厳しくて当たり前だったのに、ここまで買い支えてきたレコード派のリスナーとそれに応えるお店の意地が立派だったなと感じます。

オンラインショップに蓄積されたバイヤー目線のテキスト情報は、日本語で参照できる情報リソースとしてもかなり貴重で、当欄でのディスクレビューでもよく参考にしていました。通販で利用したい人はまだまだいるのだろうから、どのようにかして今後の事業を継続できるよう祈るばかり。

Orb Magというメディアに掲載されたニュージーランドのドラムンベースDJ Preshaへのインタビュー記事がめちゃくちゃ濃厚で良かった。

ディープ/エクスペリメンタル系ドラムンベースレーベルの覇者Samurai Musicのボスとして知られる、PreshaことGeoffrey Wrightのスケートボーディングに端を発する音楽半生、彼自身のドラムンベース観に迫るシーン概観、旧知のSam KDC、ASC、Homemade Weapons、The UntouchablesそしてENAさんを迎えたレーベルメイトたちによるクロストークと盛りだくさんの内容でした。

特に興味深く読んだのは、やはりGrey Areaの概念に迫る128/170bpmのテクノとドラムンの融合するポイントについての考え方。私はこれはASCらによる2010年代ダンスミュージックにおける最大の発見だと思っていて、まだごく狭い界隈に留まっているテクノの決定的な「4つ打ち」観の転換が、この先の10年で起きる可能性は全然あると思っています。記事の最後には、この世界観を伝えるパーフェクトな90分のミックスも添えられているのでぜひ。

7月に観たDJのなかでは、たまたまTwitter上でBoiler Roomライブ配信を見かけたHomesickのDJが超良かった。このDJはすごい。

変なロケーション! と思ったらカナダのBass Coastというフェスなのだそう。オーディエンスも見るからに頭のネジが2つ3つ外れたような奴ばっかりで、ハッピーな雰囲気に包まれている。

ここでのプレイは音数少なめのベースミュージックをフックに、ブレイクビーツ~フットワーク~テクノを矢継ぎ早に突っ込んでいる。特に中盤以降、重心がぐっと下がってどんどん好みの感じになっていった。HomesickはRBMAで頭角を現した新進のアーティストなのだそうで、関連アーティストにSinistarrやSam Bingaと出てきて、なるほど好きなわけだと思った。SoundCloudにも似た感じのミックスがいくつか上がっている。

以下続いて、7月の新譜からです。

Mattias Fridell & Alexander Johansson - Kulminationen [Symbolism]

10年以上タッグを組んでやっているスウェーデンのデュオ。多方面から新旧のアーティストを積極的に掘り起こしているBen SimsのSymbolismレーベルからのリリース。一見地味かな?と思わせておいて、5拍でループするウワモノのフィルターがじわじわ開いていく骨太で覚醒的なドライビングミニマル。このEP全曲いい。

Christian Smith - Collateral [Symbolism]

同じSymbolismから超ベテランのChristian Smith。テクネイジア風の懐かしのコード感のあるアルペジオ! こんな分かりやすいやつみんな好きだよ。

Vågh - Ingrained (STNDRD Remix) [Hivemind]

ブルガリア発のヒプノ系テクノレーベルHivemindから、バルセロナのSTNDRDのかっこいいリミックス仕事。重く前のめりなグルーヴでぐいぐい引っ張ってくれる。このレーベル知らなかったけどアートワークがめちゃめちゃクールだね。

Ken Ishii - Liver Blow [70 Drums]

気鋭のアーティストとコラボしたMVもかっこいい新曲。言葉では何とも形容しがたい「ヘンな音」を音楽として定義できるのが昔からイシイさんの最大の魅力だと思っていて、それは聴いているだけでも楽しいんだけど、たまにそれが機能性重視のDJツールとしても完全に噛み合うことがあり、この曲が久々のそれ。MVの音源はソニーが提唱する「360RA」方式のスピーカー用にマスタリングされたもので、確かに定位の前後奥行きの立体感がなんだか全然違う。あのスピーカー、実際部屋で鳴らすとどうなんでしょうね。

今月取り上げたトラックはSpotifyのプレイリストにまとめてあります。

「テクノ新譜試聴メモ」は、R-9が習慣的に行っている新譜チェックのなかから、気になったトラックについて個人的な覚え書きを残しておくものです。原則としてBeatport上で当月内にEPないしアルバムとして新規にリリースされたものが対象。通常は楽曲単位での紹介、まれにEPやアルバム単位で紹介することもあります。

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