Ableton Liveでファミコン風アレンジ制作のメモ
先日クリアしたニンジャスレイヤーのゲーム『ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上』(Steam/Switch)の音楽が総じて素晴らしく、これは久々に耳コピしてみたいと思い、せっかくなのでファミコン音源風にアレンジしてみることにしました。
出来上がったものがこちら。
1曲作るたびに公式二次創作ハッシュタグをつけてXに投稿していましたが、これまでに作った分を改めてSoundCloudのプレイリストにまとめておきました。繰り返しになりますがこれはオリジナルではなく、ゲーム内BGMを極力オリジナルに忠実にアレンジしたファンメイド二次創作です。
元の音楽にはアクションゲームらしい元気良さ、疾走感もありつつ、多彩なボスキャラやステージの雰囲気に合わせた世界観が表現されていて、原作つきゲームにつく書き下ろしのサウンドトラックとして優れていると思います。モチーフになっているはずの「ロックマン」シリーズ的な音楽もあれば、コケシマート(という名前のスーパーマーケットチェーンが原作にある)の店内BGM風の呼び込み君テーマっぽいものや、電子空間での戦闘を前提とした原作準拠の劇伴サウンドもあって、ファンもにっこり。少なくとも既存のアセットを組み合わせて作ったようなチープさは全然なく、明らかに耳に残るような職人技が光る音楽でしたので、既にゲームをプレイしてさらっと流していた方もぜひ一度じっくり聴いてみてください。
耳コピは写経
思えば、中学生のときに「マリオペイント」のサウンドコラージュでゲーム音楽の耳コピをしていたのがDTMの原体験でした。そういう人は多いんじゃないかと思います。好きな曲を聴いて書き起こしたいという欲求には、構造を分析して学習するといった目的以前に、おそらく写経や模写と同じように、単に好きなものを自分の一部に取り込みたいという、単細胞生物の食事のような原初の欲求が重なっている。
久々にやってみて思うのは、やっぱ打ち込みの耳コピ楽しいなということ。楽器ができる人ならば譜面に起こして自分で楽器を弾く楽しみがあるのでしょうが、楽器が弾けなくても、打ち込みならそれに似て好きな音を好きなように鳴らせる気持ち良さが味わえます。もちろん一筋縄では行かず、ああでもないこうでもないと試行錯誤するのですが、その過程がもう楽しい。完全オリジナルの作曲のときの苦悩とは違って、最初からゴールが見えていてそこに近づけて行く楽しさがある。
そういえば昔、ピアノを弾く友人が「聴いて好きな曲を自分でも弾けるようになるのは楽しいけれども、実際弾けるようになると、その曲をもう前と同じようには聴けなくなる」というようなことを言っていたのを思い出す。耳コピの打ち込みでも、不思議とそういう部分があります。
ツールが進化したおかげで、昔よりもずっと作業はしやすくなりました。音を取るとき、ほかの楽器に埋もれたベースラインとか、高速アルペジオの音階を聞き取るのは至難の業でしたが、好きな個所でEQをかけたりスロー再生を何度でもできるようになって、納得いくまで作り込むことができるようになった。今回そういった作業をするなかで気づいたことを、少しメモ的に書いておこうと思います。
ファミコン風サウンド制作のセットアップ
というわけで、矩形波(パルス波)2音、三角波1音、ノイズ1音で作るファミコン風音源の環境づくりから始めます。あくまで「ファミコン風」としているのは、既にカジュアルからハードコアまで豊かなグラデーションのあるチップチューン文化を踏まえたうえで、今回はそこまでファミコンの仕様に厳格にやるつもりはなく、なんとなくそうした雰囲気が感じられればいいやというニュアンスです。
環境構築のためには、以下の動画を参考にしました。
ここでは特別なVSTプラグインを使うことなく、Ableton Liveに標準で付属しているインストゥルメント(AnalogとOperator)とオーディオエフェクト(Redux)のみで、基本的なファミコンのサウンドに近づけています。大雑把ながら、パルス波のデューティー比を実機の12.5%、25%に近づけるためのセットアップを波形を見ながら詰めたりしていて参考になる。特徴的な三角波のロービット化は、実際に試してみると、Reduxを差す前の音の音量によって微妙な倍音が乗ってしまったりして加減が難しいことも分かります。
ドラムパートなどに使用することが前提のノイズは、仕様によるとサンプルレートが16段階になっているため、Drum Rackにまとめたほうが使い勝手が良さそうだなと思い、そうしています。
あるいは、別にこんなことをせずともファミコン風音源のVSTプラグインは有名なものがいくらでもあるので、好きなものを使えばよいのですが、今回はできるだけLiveネイティブで作ってみたいと思ったのでそうしています。
Liveでの耳コピの手順
まずは、耳コピしたい音源を用意して、波形編集ソフトでループになるように小節のアタマと終わりでカットしておく。そうすると、Liveは賢いのでアレンジメントビューでオーディオトラックにサンプルをドロップするだけで、自動的に小節数を把握してマスターテンポもサンプルに合わせてくれます(くれました)。このサンプルは40小節で160bpmだね、みたいな感じで。昔はこうした下準備も人力で、地味に手間だった。
こうすることで、スロー再生して一音ずつ聴き取っていくことがぐっと楽になります。あとはこのオーディオを聞きながら、MIDIトラックのピアノロールにぽちぽちノートを打っていくだけ。この行為がもうなんだか写経っぽく、ゼンが満ちてくる。
Liveはバージョン12からスケールを扱う機能が強力になり、例えばマスターをEマイナーにすれば、全てのMIDIトラックでそのスケールのキーのみをハイライトしたり、折りたたんでくれたりするので、目視での打ち込みもだいぶ楽になりました。
ついでに、今なら耳コピ支援ツールとしてオーディオファイルから各楽器パートを分離してくれるようなものがないかも調べてみました。ベースラインだけでも抽出できないかとKAWAIの「バンドプロデューサー5」の体験版を試してみたのですが、どうも都合のいい結果にはなってくれない。とはいえ、こういうのもAIの得意分野だと思うので、あと数年もすれば状況は変わってきそうです。
ファミコン風音楽へのアレンジの何が楽しいかを考えてみると、複雑な音楽を「3音+ノイズ」というシンプルな音楽に因数分解してゆくところです。実際にはコードを鳴らしている音があるとして、そのまま3和音なり4和音は鳴らせないから、メロディーやベースで鳴らしている音を間引いた残りを工夫して加えていく。あるいは、元のベースラインをそのままトレースするのではなく、8ビートなり16ビートのリズムの一部に聞こえるようにオクターブ変えて並べていくとか。こうしたテクニックは偉大なファミコン音楽で実践されつくしているから、我々は少しでもそれを真似させてもらうという感じ。
そのうえでなお楽しいのは、音を減らしてエッセンスの部分だけにしてみると、ひとつひとつの音に存在感が出てきて、ちょっとした音の長さの違いなどでノリが全然変わってくるところです。物真似とはいえ、試行錯誤のしがいがあるところ。適当にゲームボーイ風に左右にパンさせてみたりとか、本当に聞き取れないところは別の工夫をしてみるとか、好きなようにしています。
アレンジは現状4曲ほど作ってみたのですが、回を重ねるごとに要領が掴めてきて、楽しくなってきたところ。このゲーム、本当に名曲揃いでまだまだアレンジしてみたい曲があるのですが、通常ステージの曲を8ボス中3曲作ったので、この際全部やりたい感じもあります。1曲あたり3~4時間くらいはかかるので、暇をみて作っていきます。
原作ゲームもぜひ遊んでみてね。