テクノ新譜試聴メモ:2021-06
知らなかったんだけど、UKのMarco LenziのレーベルMolecular Recordingsの90年代のバックカタログが一部デジタル化されているんですね。Bandcampには2年前からあって、今月からBeatportでもリリースが始まった。こういう往年のレーベルのリマスターの報せ、アーティストをフォローするなりしていないとなかなか気づけないよね。
ここってまさにいぶし銀のようなレーベルで、ツールとしての機能性を重視した重心の低いミニマルテクノを連発していて好きだった。Inigo Kennedyなんかはここを通じて知ったような気もするし、18番のChris Liebingの"Koller"はその後に来る硬いハードテクノ全盛期の先駆けとなるEPだった。レコードのデザインもクールで、見かけたら買うようにしていました。今の耳で聴くとまた味わいの深い作品が多いと思います。
現在までにデジタルリリースされている5作は、いずれもアナログで出た当時はアーティスト名を伏せて発表されたナンバリング覆面シリーズ「XX」の1から5まで。いずれもBeatportにはクレジットが出ていて、それぞれMarco LenziとInigo Kennedyのソロあるいは共作であったことが明かされています。音でだいたい分かっていたけどね。わたしも5枚のうち4枚は持ってた。
特にお気に入りだったのがXX2のA面。弾力のある太いキックと抑制的ながらも昂揚感を煽る覚醒的シーケンスに深夜のピークタイムっぽさを感じる。
関連して、DecadanceというイタリアのメディアにMolecularレーベルの歴史とMarco Lenziへのインタビュー記事をTwitterで見つけました。2020年6月のもの。
これを読むと、レーベルの立ち上げ期のエピソードから激動するテクノシーンとのかかわり、ロンドンにあったSilverfishとEucatechというふたつのレコード店のこと(Eucatechはレーベルとしても知られている)、全盛期は平均的に3,000~4,000枚を売り上げていたことや、前述のChris Liebingのリリースは爆売れして18,000枚出たみたいな生々しい話もある。ずっと好きなレーベルではあったものの、わたしのなかでは情報の参照先がまったくなく、謎に包まれていたことがいろいろと明らかになった。
こういった数年前ならマニアックすぎて出なかったようなリマスターが、再評価なのかはたまた懐古趣味なのか、またちらほら出ていて楽しいですね。
以下続けて、そのほか6月の新譜から。
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The Plant Worker & DIAPO - Pull The Trigger [Suara]
今月一番良かったやつ。フランスのThe Plant WorkerとDIAPOのSuaraからの5トラック、どれも存在感のあるモダンなツール系ロウ・テクノでかっこいい。ピコピコしたウワモノがフックになるA1が好き。
Rebecca Delle Piane - Balance [Symbolism]
Ben SimsのSymbolismから、イタリアの新鋭フィメールDJ Rebecca Delle PianeのセカンドEP。質の高いモダンテクノ4トラッカーで捨て曲なし。ぎっしり詰まったヒプノティックな音作りが得意のようで、たぶん好みのスタイル。今後の活躍が楽しみ。
Skjöld - Unknown Witchcraft Part.1 [Edit Select]
最近ずっとハマっているSkjöldの新譜がまたEdit Selectから。いつものひんやりとした質感で縦に刻むディープなテクノ。ストイックなんだけど沈思黙考している感じではなく、空間を行き交う奇妙なシンセサウンドの応答が常に前へ進む推進力を生む。
Biz - Psychotropic (Hannes Bieger Remix) [Tronic]
原曲のデトロイトっぽいコード感をそのままヘヴィーなフロア向けテクノに持ってきたかっこいいリミックス。Tronicは昔からそんなに入れ込んでいる音ではないんだけど、たま~に好みに引っかかる曲があって今でも買っている。
Dax J - Simulated Reality (AI Terafactory Electronics) [Monnom Black]
これはMVがかっこいいので見て! 日本の映像アーティストAUJIKとのコラボで生まれた作品。大阪を舞台に、拡張現実的な手法で表現されるバイオサイエンティフィックな映像が、ドライブするノイジーなハードテクノとハマっている。Dax Jは3枚目のフルアルバムの発表を年内に控えていて、これはそのアルバムサンプラーからの1曲。
VIL & Cravo - Fuck This Dub [Klockworks]
Ben KlockのKlockworksの32番からデジタル先行カットされた1曲。疾走感のあるファンキーな速いグルーヴとおしゃれなフィメールボイスサンプルのコンビネーション。
Ecilo - White Lane [We Are The Brave]
Planet RhythmやArtsからも引き合いのあるジャカルタのテクノアーティストEciloの新譜、相変わらず暗くて硬派で熱い。もっと聴きたい。
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Spotifyプレイリストも更新しておきました。
興味のあるかたはプレイリストを追加してみてね。
「テクノ新譜試聴メモ」は、R-9が習慣的に行っている新譜チェックのなかから、気になったトラックについて個人的な覚え書きを残しておくものです。原則としてBeatport上で当月内にEPないしアルバムとして新規にリリースされたものが対象。通常は楽曲単位での紹介、まれにEPやアルバム単位で紹介することもあります。