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テクノ新譜試聴メモ:2023-10
10月の話題。あまり戦争のことは進んで書きたくはないけれども、やはり10月7日の朝にイスラエル郊外で行われたサイケデリックトランスのフェスで起きたことはショックでした。遠い国での出来事とはいえ、ピースフルな野外レイヴの会場が標的にされたことは、なにか我々と地続きのところで起きているという実感のようなものがありました。
特に、現地にいた日本人DJのSPECTRA SONICSことMASAYAさんのYouTubeでの帰国後の証言(イスラエルへDJしに行き戦争に巻き込まれた件について - YouTube)は生々しく、貴重なものでした。
しかし、とはいえ以後連日のパレスチナ人への苛烈な空爆の映像を見ていると、この件に関してどちらか一方に立って意見する気にもなれない。過去にResident Advisorで特集されたパレスチナのシーンの記事も読んだし、Sama' AbdulhadiのようなDJも出てきている。無縁でいられないのは確かです。
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Underworldの新曲"denver luna"は、昔馴染みのアンダーワールドの味ながら今風にハードな4つ打ちに仕上がっていて、なかなか良かった。お経のようなグルーヴに、有機的で不安定に響くキックが重なって、アゲアゲなだけではない、独特の内向的なバレアリック感が出ている。老舗の味。
以下、10月の気になる新譜から。
Dino Sabatini - Opera Quattro [Outis]
Dino Sabatini、自身のOutisレーベルから久々の新譜! 2012年の"Shaman's Paths"、2016年の"Omonimo"に次ぐ同路線での新作とのことで、まず呪術的でトリッピーなアートワークが渋かっこいい。Luizi TozziやNessなどにも通ずるディープで遅い4つ打ちテクノと、半分のドラムンベースがクロスオーバーする80bpm台のビートのなかで、複雑なパッドが生み出すアンビエンスと乾いたパーカッションが神秘体験へ誘う。細かく振動する高音が気持ちいい"Inenarrabilis"と、退廃的ディストーションサウンドが劇的な"Ego Experior"が新機軸。今回はEPだけど、そろそろアルバムも聞きたい。
Uncertain - Mood EP [Beard Man]
Mark Broomのレーベル35番は元Boriqua TribezのUncertainの新譜EP。Beatportで先行リリースらしくまだ情報は少ないけれど、4曲ともソリッドでパンピンなハードグルーヴで推せる。どの曲も使いやすそうでいい。B2の"Cut"が前のめりで好きです。
Uun - Out of Time [NODE]
スペインのNODEレーベルからのV.A.盤"Neural Haze"は、ConceptualやOrbe、Farcebといったハードなヒプノティック系テクノの常連のなかで、個人的にあまり馴染みのなかったデトロイトのUunの曲が良かった。90bpmのダビーなハーフステップとして聞こえて135bpmの三拍子テクノとしても機能するグレーエリアの佳作。
Groof - Spaced Out Part 1 [Inducted Waves]
PWCCAのレーベルInducted Wavesの23番から。不穏なスケールで上下する金属的なウワモノシンセと、強靭な16分のビートが催眠的。裏で薄く鳴っているアシッドっぽいベースのシーケンスもいい。キャッチーでかっこいいです。Groofはマドリードのアーティスト。
Ackermann - I Got My Man [Smile for a while]
普段あまり馴染みのないベルリンのディープハウスのレーベルから。シャウト系のヴォイスサンプルと、クセになるコードスタブが繰り返す音数の少ないミニマルなグルーヴ。超かっこいい。いろんな曲と合わせたい。
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Spotifyのプレイリストも更新しておきました。
「テクノ新譜試聴メモ」は、R-9が習慣的に行っている新譜チェックのなかから、気になったトラックについて個人的な覚え書きを残しておくものです。原則としてBeatport上で当月内にEPないしアルバムとして新規にリリースされたものが対象。ピックアップは楽曲単位、またはEPやアルバム単位でも紹介しています。