レイモンド・スマリヤン ゲーデルの不完全性定理(高橋昌一郎訳) 副読本(誤訳の訂正)
レイモンド・スマリヤン ゲーデルの不完全性定理(高橋昌一郎訳)
名著です。致命的な誤訳のせいで、日本語版が異常に読みにくいです。このノートに誤訳の指摘と正しい訳例を記載します。
第一章
P.7
<元の日本語>
[すべての式Eとすべての自然数nに対して、式E(n)を与える関数Ф。
この関数はすべての述語Hとすべての自然数nに対して、式H(n)が文であるための条件として必要である]
⇒<訂正>
[次の性質を持つ関数Ф。
- Фは、すべての式Eとすべての自然数nに対して式E(n)を与える。
- Фは、すべての述語Hとすべての自然数n に対して文H(n)を与える。]
P.8
<元の日本語>
[集合Aが体系Lの任意の述語によって言及されるとき、AはLにおいて言及可能または命辞可能と呼ばれる]
⇒<訂正>
[体系L内に或る述語が存在して、集合Aがその述語に言及されるとき、AはLにおいて言及可能または命辞可能と呼ばれる]
本書全体を通じて <…が成り立つような~が存在する> と書くべきところが<任意の~に対して…が成り立つ> と書かれている場合が散見されます。
<元の日本語>
[ここで興味深い問題は、体系Lが正確であるときに真であるにもかかわらずLが証明可能でない文を含むための十分条件である]
⇒<よりわかりやすい日本語>
[ここで発生する興味深い問題は、「体系Lが正確であるときに真であるにもかかわらずLが証明可能でない文を含むための十分条件はなんだろうか?」という問題である]
実際 P.10からp.12の間でこの十分条件が何なのかが説明されている。
p18
<元の日本語>
集合R*の任意の超集合が、集合Pと互いに素であり、体系Lで表現可能であれば、Lが不完全であることを証明せよ
⇒<訂正>
集合R*の超集合のうちの1つが、集合P*と互いに素であり、体系Lで表現可能であれば、Lが不完全であることを証明せよ
p19
<元の日本語>
[問題5 ……このとき、任意の対角関数d(x)に対して、d-1(A)がLで言及可能であれば……]
⇒<訂正>
[……このとき、そのような対角関数d(x)に対して、d-1(A)がLで言及可能であれば……]
III章
P.48
<元の日本語>
「xがyを始める」(b進法表記において) という関係式は、 0がyの部分でないとき、 任意の数zに対して、
x=y または x≠0, およびx*bz=y
のときに限って成立する.
より一般的には(0がyの部分である可能性も含む),この関係式は,任意の数zとbの累乗数wに対して、
x=y または x≠0, および(x・w)*bz=y
のときに限って成立する.
⇒<訂正>
…「xがyを始める」(b進法表記において) という関係式は、0がyの部分でないとき、
『あるzが存在して、 (x=y) または (x≠0かつx*bz=y)』
となるときに限って成立する.
より一般的には(0がyの部分である可能性も含むと),この関係式は,
『ある数zとあるbの累乗数wが存在して (x=y) または (x≠0かつ(x・w)*bz=y)』
となるときに限って成立する.
P.50
<元の日本語>
ここで、xとyが要素である列の列数をzとおく
⇒<訂正>
ここで、xとyを要素として含む列の列数をzとおく
p.52
<元の日本語>
1.Sb(x): Exは添え字の列である.
(∀y≦x)(yPx⊃5Py)
⇒<訂正>
1.Sb(x): Exは添え字の列である.
(∀y≦x)(yPx⊃0Py)
p.59
<元の日本語>
問題6
ここで条件「PE'の証明のゲーデル数はxである」を「Pf'(x)」と表記する
⇒<訂正>
問題6
ここで条件「xはPE'の証明のゲーデル数である」を「Pf'(x)」と表記する
第IV章
P.70
<元の日本語>
構造xに対して,xがyの部分であり,xがyの部分である限りの任意の構造であるとき,xは最大構造と呼ばれる
⇒<訂正>
構造xに対して,xがyの部分であり,yの部分であるような任意の構造がx以下の大きさとなるとき,xは最大構造と呼ばれる
<元の日本語>
数の順序対の任意の列数θに対して、zをθの任意の列数とおく.このときK(x,y,z)が成立するのは順序対(x,y)が列数θの要素であるときに限ることに注意してほしい。
⇒<訂正>
数の順序対の任意の有限列θに対して、zをθの任意の列数とおく.このときK(x,y,z)が成立するのは順序対(x,y)が有限列θの要素であるときに限ることに注意してほしい。
P.75
<元の日本語>
A(v1)がΣ論理式であれば、∃v2(D(v1,v2)∧A(v2))も数論的である
⇒<訂正>
A(v1)がΣ論理式であれば、∃v2(D(v1,v2)∧A(v2))もΣ論理式である
p.76
<元の日本語>
これらの変更によって、条件16と17に対して、ExをPAで証明可能または反証可能(PA(x)またはRA(x))とする条件になる
⇒<訂正>
これらの変更によって、条件16と17は、ExをPAで証明可能または反証可能(PA(x)またはRA(x))とする条件になる
p.79
<元の日本語>
(c) …さてこれらの2つの式は,
∃y(S1(x1,…,xn,y)∨S2(x1,…xn,y))
∃y(S1(x1,…,xn,y)∧S2(x1,…xn,y))
と同値であり…
⇒<訂正>
これらの二つの式は、
∃y∃z(S1(x1,…,xn,y)∨S2(x1,…xn,z))
∃y∃z(S1(x1,…,xn,y)∧S2(x1,…xn,z))
と同値であり…
(同ページ)
<元の日本語>
(d) …よって,y≦zをΣ0関係式にするような、すべてのn+2順序対(x1,…,xn,y,z)の集合Kは,
⇒<訂正>
…よって,y≦zを真にするような、すべてのn+2順序対(x1,…,xn,y,z)の集合Kは,
(同ページ)
<元の日本語>
(d) …この条件を数x1,…,xn,y,zが満たすとすると、
⇒<訂正>
(d) …この条件を数x1,…,xn,zが満たすとすると、
p.84
<もとの日本語>
問題4
…よって定理Aより、(a1,…,ak)の列数はx以下である
⇒<訂正>
…よって定理Dより、(a1,…,ak)の列数はπ(x)以下である
第V章
p.87
<元の日本語>
公理化可能でない体系の一例は,論理公理を除くすべての公理が正確な数論的論理式で構成される体系N(完全な数論の理論)である
⇒<訂正>
公理化可能でない体系の一例は,論理公理を除く公理がすべての真である数論的論理式で構成される体系N(完全な数論の理論)である
p.100 - p.101
<元の日本語>
[問題7の解答] (3)
すべての真であるΣ0文がSで証明可能であると仮定する
…(中略)…
であれば、体系Sはω矛盾でなければならない
<↑これはA*の証明になっていない>
⇒<訂正>
体系Sが単純無矛盾でかつ偽であるΣ0文が体系Sで証明可能でないので、(1)より文Gはで証明可能でない。
体系Sはω無矛盾であるので、(2)より、文Gは反証可能でないか、あるいは少なくとも一個の真であるΣ0文が証明可能でない。
(i)文Gが反証可能でないとき、文Gが決定不可能な文である。
(ii)少なくとも一個の真であるΣ0文が証明可能でないとき、その文をRとおくと、~Rは偽のΣ0文なので、仮定より~Rは証明可能でない。
よってRは決定不可能な文である。
(i)(ii)どちらの場合も体系には決定不可能な文が存在することがわかった。
p.113
問題10
<元の日本語>
体系PAの正確性(ω無矛盾性だけでもよい)の仮定により、Σ1論理式は、…
⇒<訂正>
体系PAの正確性(ω無矛盾性だけでもよい)の仮定により、あるΣ1論理式が、…
以上。
*第II章に指摘したい部分はありません
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