私を構成する記事9選
「 #私を構成する9枚 」というハッシュタグがある。
音楽ファンが自分の好きなアルバムを9枚選んでツイートするという奴である。「構成する」という名は少々大袈裟な気もするが、作るのが楽しい上見る側もお手軽に人となりが知れるので音楽界隈ではお馴染みになりつつある。
ちなみに僕は大体こんな感じ。
しかしながら僕は一応音楽ブロガー。Webブロガーと音楽批評界隈の両方の端くれに位置する芸風でやらせてもらっている。故に音楽と同様にWeb記事の方でも自分に影響を与えたと言えるものを選ぶと、僕と関わる諸兄に人となりを知ってもらいやすいのではなかろうか。
というわけでやらせてもらいます。私を構成する記事9選を。
ピクトさんの研究(日本ピクトさん学会)
小学校の頃、本屋である本を見つけた。「ピクトさんの本」である。酷い目に遭っているピクトグラムを蒐集し過酷な労働をこなす彼らに「ピクトさん」と敬意を表しつつ、フラのあるコメントを付けていく本である。EPOCALC少年はこれに多大なる衝撃を受け、自分でも様々な可哀そうなピクトグラムを集めたのだった。
日本ピクトさん学会はその本の著者である内海慶一氏がされているブログである。もちろんこのブログも読み漁った。「身近なものを面白がる」という視点、対象と真摯に向き合うことで起る面白さは、ピクトさん学会から学んだ。
プエルトリコ(gioco del mondo)
gioco del mondo(ジョーコ・デル・モンド)はボードゲームファンの間では洒落た雰囲気と確かなレビュー、そして時折挟まる下らなくも笑えるジョークでよく知られたブログである。その中でもプエルトリコのレビューは、プエルトリコ自身がボードゲーム史上最高傑作と呼ばれるのと同様に、このブログの色が出ている素晴らしい記事に仕上がっている。
2chのパロディから開始する冒頭、ゲーム内で移民を表すコマをわざわざ「奴隷」と呼ぶブラックジョークなど毒っ気たっぷりな本文、その一方総評では評価点と問題点をきっちりと示すメリハリの付け方。短いながらも非常によくできたレビュー記事の一つであるように思う。
最小二乗法でフシギダネの誕生日を求める(アジマティクス)
鰺坂もっちょは数学界隈では知らぬ者はいない、「文系の数学エキスパート」として知られる存在である。Twitterでは数学をネタにした数々のジョークを飛ばす彼の手によるこのブログは、アカデミックで難しい印象のある数学をポップに扱っている点で他の追随を許さない。
「ポケモン」という誰もが知る題材をテーマに、直観的理解ができるような易しく優しい記述で最小二乗法を説明していく様はまさに圧巻。「夢を見るためのツール」としての数学の面白さ・奥深さを一般の人にも分かりやすく解説する優れた記事である。マイナーな音楽をレビューするとき度々読み返していた。
35歳無職でも起業したら1週間で社長になれることが判明(BHB提供記事)
今をときめくWebマガジン・オモコロ。それを知ったきっかけは人それぞれと思うが、僕の場合はこの記事だった。実際に「株式会社」を設立する記事であり、オモコロ関連の記事の中でも一際異彩を放つ一作。
記事中で株式会社を作るだけでも凄いが印鑑をイモで作る、コンプラギリギリの社名にするなどオモコロらしいおふざけもてんこ盛り。こんな記事が書けたら本望である。
ペリーがパワポで提案書を持ってきたら(デイリーポータルZ)
そしてデイリーポータルはここからだった。ペリーが開国する際使うための提案書をパワポで作ろう、という「開国してください」のFlashを彷彿とさせる記事である。こういった題材マリアージュの面白さはデイリーポータルに教わった。
ちなみに日本ピクトさん学会の内海氏はデイリーポータルのライターでもある。それもあって僕はデイリーポータル派だ。
真面目に究極の邦楽名盤ランキングを作る。(脱R論)
数年前まで、音楽界隈では地下室タイムズというブラックジョークと称し音楽家への敬意を欠いた文章を出すWebマガジンが幅を利かせていた。あまりに酷い炎上商法であったために良心的な音楽ファンからは白い目で見られていたのだが、それ故音楽のオモシロブログ=地下室タイムズとされ忌避されていたように思う。その向かい風の中でコミカルで良心的な企画系音楽記事を作っていたのが脱R論である。
特にこの記事は昨今よく見られる個人による邦楽名盤ランキングのはしりともいえる存在で、このブログの先進性を物語る。他にも機械学習で歌詞を作成する、最近よく見るAI記事と似たような試みを5年前に既にやっている。あまり顧みられることがないが、実は現在の音楽系企画記事の原点ともいえる存在なのである。ただ最近はちょっと迷走気味……。
檸檬(迷走録)
僕が度々言及する身の回りにいた尊敬する人物の一人に、三浦武先生という方がいる。予備校の現国担当であったのだが、彼の授業スタイルは時間のほとんどを哲学や芸術等を題材にした雑談に費やすというもの。ある時は自前の蓄音機を持ち込んで生徒に聴かせたこともあった。そして最後に少しだけ行われる本文解説では、一見関係のない雑談の内容を美しく絡めて終わる。生徒から絶大な人気を誇る名物講師であった。
彼の授業内の雑談はいくつかレパートリーがあるのだが、それを簡単にまとめたのがこの「迷走録」。この「檸檬」の記事で更新は途絶えてしまっているが、ここに彼の芸術観が詰まっている。しがないブロガーではあるものの、音楽に関わる者として度々読み返す。他記事ももちろん必読である。
新譜ディスクレビュー(Water Walk)
僕は永らくはてなブログでユニークなアイディアを取り入れたレビューや企画をやっていたが、正直伸び悩んでいた。僕以外の音楽ブロガーがこの手のことをやらないということは批評的に魅力的な取り組みではないからなのでは?音楽批評は真面目なモノしか認められないのでは?など、頭を抱えていた。また一部の人が僕の記事を不真面目と嘲笑っていたのも悩みの種だった。
それ故Water Walkとして多人数でやることになった際、一番の不安は「僕の今までやってきたことは果たして同業のブロガー/ライターに伝わるのだろうか」ということだった。しかしこの記事でその不安は払拭された。この記事は前衛音楽批評、まさに僕のやりたかったことである。記事自体の評判もよく、僕のやってきたことは間違いではなかったと確信することになった。ありがとう、リサフランク君。
自分に彼女ができた話とその顛末について(依緒ちゃん配信切り抜き)
個人ブログ史上最高傑作と言ってもよいくらいの記事。面白いブログ記事を極めるあまりSFの領域に入っており、2020年代のSF短編傑作の内の一つとして扱って全く構わないように思う。
この記事が発表されたのはちょうどオモコロ杯開催発表直前であったので、恐らくこれはオモコロ杯用で今年の最優秀賞だろうな、とさえ思っていた。実際蓋を開けてみると、この記事は全く影も形もなかった。どうやらこの記事は何かに投稿する目的で書かれたのではなく、ただ純粋に表現したいことを記述したものらしい。そう考えると本当に素晴らしい記事である。
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