障害者が転職してきた
私が障害者雇用で今の企業で働いて、早7ヶ月。
今の部署には約90名いるけれど、障害者は私だけ。
みなさん新卒で雇われて以来、ずっと続けてるから、同期の飲み会とかもやっていて、それはもう非常にうらやましたかった。
なんでも話せる仲間が欲しいなあとぼんやり思っていたところ、ある日上司が私に、障害者の方が新たに入ってくることを教えてくださった。
それを聞いて喜びのあまり、その場で飛び跳ねそうになった。
しかも女性というではないか。色々とお話しできたらいいなあと色々思案しながらその人を待った。
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初日の朝、その方はズラッと勢揃いした部署の皆さんに挨拶をされていて、私はウキウキしながら遠目でその様子を見ていた。嬉しいな、嬉しいな。
ただ初日に飛びついていくのもはばかられるので、その日は大人しくしておくことにした。明日にしよう、明日話しかけよう、何を話そうか、などなどを楽しく思案していた。(仕事なんてそっちのけである)
2日目
昼休みに偶然洗面所で会う。
特に何も進展はなく、同じ部署で働いてます、よろしくお願いします、とだけやっとのことで伝える。
3日目
またしても昼休みに洗面所で会う。
二人きりである。
たわいもない会話を交わす。
フロアに入るために必要な静脈認証が反応せず、別の人に開けてもらっていることを伝えられ、総務課に行くと再登録してくれますよ、私もそれやりました、と伝える。
4日目
いつも洗面所で会うことがわかる。
他に誰もいなかったので、ニコニコしながら、
私が障害者で、てんかん患者だと伝える。
彼女も自分は障害者だと教えてくださる。
何か分からないこととかあったら遠慮なく言ってくださいね、と伝える。
5日目
お昼ご飯はお弁当ですか?作るの大変ですね、
いえいえ、冷凍食品ですよ、
あ、私もです!という他愛もない会話で和む。
こんな感じ。
つかみはOKである。
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話してるうちに年齢も近そうだなと思って、ランチに誘ってみた。
快く承諾してくれたから、それはもう嬉しくてしょうがない。どこかおススメのお店を聞いたりしながらその日を待ち続けていた。
いよいよ当日。
洋食の美味しそうな喫茶店が目を引いた。そこにきめてメニューを広げ、二人ともルンルンだったからか、食後のコーヒーまでちゃっかり頼んだ。
落ち着いた雰囲気の人なんだけど、話は尽きなくて、パスタを頬張り2人とも「熱い熱い」と言いながら、これまでの経緯とか、転職活動の話とか、面接試験の様子とか、業務の内容などなどを共有できた。
食後のコーヒーも味わいながら盛り上がっていると時間はあっという間に過ぎていて、時計をふと見た彼女が「もう12:51だ!」と驚き、大慌てで会計をして二人で小走りしながらオフィスに戻った。
その後パソコンのチャットで楽しかったですね!また行きましょうね!と送り合いながら。
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その方は身体障害者で、欠損部分があるけれどそれ以外は健常者と同じように動くことができるのだという。
とはいえ欠損部分は手の指だから、パソコンのキーボードを打つのもコツがいるのだろう。
今の仕事のほとんどがパソコンを使うものだし、慣れるまではストレスがかかるかもしれない。
欠損のある関係で、他の身体機能に負荷がかかるのかもしれなくて、それはなかなか明るみに出ないのだろう。
彼女は続けて言った。
「だからなのか、今の課内ではみなさん普通に接してくれる。逆に言うとぱっと見は元気に見えるから、前の職場ではどんどん仕事が回ってきてたの。だから、自分で体調不良のときは言うようにしてるの。ここでもその方法でいこうかなと思って」
それは私も同様で、体調が良くない場合には、いかに上手に振り切るか(「今は無理!」と伝えること)を考えている。
うまくいかなかったら、作戦をどうするか、それでもダメならどの駒を動かすか。
障害者は障害者なりに生き延びる戦略を備えているのだと思う。
これまでサバイブしてきた経験をもとに、「障害者」として慎ましやかに、かつ堂々と働くうえでいかに上手く自分に負担をかけずに、最後まで働ききるか。
そこには自らの熟考とコツを作り出す戦術が求められる。
身体は資本である。
脳も資本である。
その資本に自ら「ハンディ」シールをペタペタと貼り付けて、健康な方々に障害者というものを分かってもらう。
貢献できる範囲は健常者に比べて狭くなるけど、貢献できる限り精一杯貢献しますという姿勢。
それが健常者とともに働くリテラシーなのだろう。
それが障害者の生き方なのだろう。
ランチはとても楽しかったのと同時に、彼女のおかげで障害者の「奥行き」を感じ取ることができた。
とても良い経験だったなと思う。
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