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フランスに初めて渡って地上に足を踏み下ろしたときの感覚は、今でも忘れない。 その場所の空気に肌を触れさせた瞬間に出てきたフレーズは、 「ああ、水が合うってこれか」だった。 ほとんど、自分でも意味がわからなかったが、ただそう思った。
思い出す限り、10年前の当時だけが そのヒッピー男が唯一 髭の長さをまだ気にしていた 我々の貴重な青春時代であった。 わたしは上海にいた。 暗黒時代真っ盛りの時期、最後「光」に向かうために必要な経験をしていたころで そんな時、わたしはヒッピー男に出逢ったのだった。 ヒッピーは、わたしの光となった。 ○ 一応、アメリカ文化やらヒッピー文化に馴染みのない諸君のために ヒッピーについて説明をすると、60年代世紀のスーパースタービートルズの時代に「戦争反対」と書かれたボードを掲
つづき 所帯染みた家家を横目に歩くと 一軒だけ小さめのスーパーがあって 手ぶらで訪れるつもりしかなかったわたしは 特に何かを買う予定もなく、 ぶらりと その古くて汚い、店の自動ドアをくぐった。 ドアが開く瞬間の 独特の乾いた、アメリカのgrocery store 食料品店の匂い。 マンハッタンにも同じように山ほどのスーパーと呼ぶにふさわしいような店もあったが、 わたしはその、スーパーマーケットではなく”食料品店”という言い方が とても、好きだった。 それは
ニューヨークという土地は縦長で、川に囲まれているのだが そのすぐ向こう岸は、ニュージャージー州と呼ばれるお隣の州がひろがっている。 マンハッタンが東京都内だとしたら、 さしずめ江戸川区民がそこまで出勤するような感じで 街中までアクセスが便利で人気がある地域に ホーボーケンという、一歩間違えば毛がはみ出しているような名前の地域があった。 まあ、わたしはボーボーなんちゃらの何を知っているわけでもなく 東京都民でもない上に、江戸川区という場所がどこにあるかすら よく知ら
その日は今日のような爽やかな、夏の陽気の残りカスが混じった秋晴れで ハドソン川の向こう岸について、 その川沿いの公園から一望できるミッドタウンのビルたちは 中にいるときはねずみ色の無機質な巨人に囲まれているようなのに それはそれは、 美しい並び方をしていることを知った。 視界を遮るものはなにもなく、空には雲ひとつなく、 わたしはやっぱり 何も持っていなかったけれど その真っ青な風景を ただ何枚も、カメラに収めた。 バスだか電車に乗って向こう岸へ渡る機会は