ホーボーケンと、秋とパセリ一把
その日は今日のような爽やかな、夏の陽気の残りカスが混じった秋晴れで
ハドソン川の向こう岸について、
その川沿いの公園から一望できるミッドタウンのビルたちは
中にいるときはねずみ色の無機質な巨人に囲まれているようなのに
それはそれは、
美しい並び方をしていることを知った。
視界を遮るものはなにもなく、空には雲ひとつなく、
わたしはやっぱり
何も持っていなかったけれど
その真っ青な風景を
ただ何枚も、カメラに収めた。
バスだか電車に乗って向こう岸へ渡る機会は
細長いマンハッタンの街ん住んでいると
ほとんどおとずれない。
とくべつな用事でもない限り
すべてはニューヨークの小さな碁盤の目のなかで
事足りるものだ。
小さなその旅を、わたしは楽しんだ。
◯
たしかわたしは当時、
どこかから、どこかへと移るその手前にいた。
おそらく、合計で6、7年は住んでいた
ニューヨークと呼ばれるその街での
慣れ親しんだ粗雑な人生を
ようやく終わらせて
次に向かうようなそんな時期
そんな時に
古い友人Rが住んでいる家で
さようならの前に一度食事でもしようかということになって
呼ばれたのだった。
古い友人といっても、彼は私が結婚する前
いっときだが、恋人のような役目を担ってくれていた
わりと気の合う人間のひとりだった。
英語には、
つきあう、デートする、正式に恋人同士をする
というような言い方が便利にいくつかあって
”とくに恋人ではないが””付き合っている”
という言い方が存在した。
Rと私はそういう関係を
かすれて、出たり出なかったり、
時々長い線がひける、ボールペンのインクのように
短い間、続けたのだった。
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