第8回(2024.11.07)の授業のフィードバックから

こんにちは。早いもので今年のこの授業も折り返し地点を過ぎました。
今回はワーキングメモリー(作業記憶, 作動記憶ともいう)の保持時間、そして容量の限界を体感してもらうために、簡素化した Brown-Peterson Paradigm のミニ実験をやってもらいました。
今回も授業にいただいたフィードバックからご紹介しましょう。

  • アルファベット5文字を覚える時に語呂合わせで覚えたことがあり、割と簡単に思い出すことができました。 今思えば、これも語呂という1つのチャンクで覚えたため、すぐ思い出すことができたということなのでしょうか?

もしも語呂合わせなのだったら、その通りだと思います。

  • 10文字のアルファベットは確かにそもそも0秒でも覚えられなかった(パターン5)。2個セットにして覚えようかなと途中で考えたのはまさにチャンクの考え方で少し感動した。

  • 自分はボードゲームをよくやるのですが、割と早い段階で戦略をチャンク化してしまっているので飽きるのが早いです。あと自分は0秒だったら15文字くらいだったら覚えられると思います。

チャンク化の戦略をうまく使えば、多い文字でも可能だと思います。が、無意味文字を何百回もやると、さすがにその全てでそれがうまくいくとは限らないので、15文字は無理だと思うのですが…

  • 今回は記憶のメモリスパンは7±2チャンクという話がありましたが、これを極限まで9チャンクの状態を出せるように訓練することはできるのでしょうか?例えば生活習慣などでこのメモリスパンを増やせるのでしょうか?チャンク化の発送としては長期記憶の情報を使うことで作業記憶に入れる情報を圧縮しているというようなことだと感じた。

まず7±2という "magical number" については、現代では同じ人でも必ずしも一定ではなく、いくつかの要因に影響を受けて変動すると言われています。次にメモリースパンは訓練(training)によってある程度は増やせると言われています。

  • 作業記憶の容量というものは、努力によって広げられるのかが気になる。

メモリースパンは訓練によって多少増えるようですが、大幅な増加は見込めないと思います。それよりも授業の最後に扱ったように、あるドメインに熟練することにより記憶の仕方やLTWMの使用などのアドバンテージが増えることの方が重要に思います。

  • チャンク化を得意にしたり長期作業記憶を使えるようになったりするために有効な手段はあるのか気になりました。

ある領域(ドメイン)に熟練することです。たとえば将棋の道を極めましょう。

  • チャンク化して記憶することは、その記憶の精度に影響しないのか、気になりました。チャンク化するにあたって、例えば一定のバイアスが働くなどが想定されると思います。

授業でも触れましたが、熟練した (=慣れ親しんだ)領域はチャンク化が上手くいく、という違いはあります。

  • 囲碁や将棋などの比較的高度なボードゲームやチームスポーツなどは少なからず戦争をルーツに持つだけあって、動的な状況でワーキングスペースをフルに活用する力を求められると感じる。このような種の遊びを非常に面白いと個人的には思うのだが、これらの分野で秀でた人間はマジックナンバーを超えた数のチャンクをワーキングメモリーで扱うことができるのではないかと疑問に思う。

メモリースパンそのものはそれほど大幅に増やすことはないと考えられますが、一方で今日の授業の最後でやったチャンク化がうまい、あるいはLTWMを利用するなどのことができているのだと思います。

  • 状況把握の力について、今やっているゲームでかなり状況を把握するところと目の前に集中するとこほを両立するのが重要になるゲームがあるので、状況把握の部分はパターンをもう少し覚えてみようと思った。

記憶のメカニズムを知ると、いろいろと 応用が効きそうですね。

  • 今回の授業では作業記憶の限界を知ることができた。長い時間保持でいないだけでなく、保持できる情報量(約チャンク7)にも限りがあることをを知った。また、自分はサッカーをしているので、味方や敵、ボールの位置などをすばやくチャンク化して状況認識できるようになりたい。

  • 長期的作業記憶はサッカーでは状況把握能力を表すサッカーIQに相当するのかと思った。

「サッカーIQ」という言葉は初めて聞きましたが、状況把握能力だと、状況認識(Situation Awareness; SA)ではないでしょうか。ただ、その上で最適な行動(選択)ができる能力、となると次回勉強する意思決定にも関係してきそうです。

  • 1,2,3,3,5,6,7という数列は何チャンクなのだろうか?

3チャンクかな?と思いますが…

  • 実験をやっているとき、10文字になった瞬間明らかに思い出しづらくて驚いた。また、この実験を漢字でやってみると面白いのではと思った。漢字の情報量に関しては、その文字を知っているかいないかで大分変わりそうであり、画数がどのくらい情報量に影響を与え、チャンクがどのように構成されるかなども気になった。

面白そうですね。研究として取り組んでみては?英文字や数字と同じになるでしょうか?

  • 今日の授業では、ミニ実験を通して作業記憶の容量や時間制限がどのくらいの範囲であるかを体感しました。また、専門家の専門領域に関する情報が長期作業記憶に保持されることも学びました。疑問に思ったのは、もし専門家がその専門領域の知識を忘れてしまった場合、それは長期記憶へのアクセスが失敗したためなのか、それともそもそも長期作業記憶に入っていなかったからなのでしょうか?

忘れてしまった、ということは長期記憶へのアクセスに失敗したか、それとも何らかの理由で長期記憶から失われたか、のどちらかだと思います。

  • 写真記憶(映像記憶?)って鍛えることは可能なのでしょうか?もし鍛えられるのならば、今回のような実験のような10の文字を覚えることも容易くなるのかなと思った。

これが上手くできる人の話はよく聞きますが、必ずしも全ての人ができるわけではないようで、よくわかっていないことも多いようです。というわけで私はあまり詳しくありません。ごめんなさい。

  • 記憶という抽象的概念が簡潔に表現されていることが、なんか変な感じがして、素直に理解することが難しかったです。

今回扱った記憶はあくまでワーキングメモリーだけなので、長期記憶についてはほとんど触れていませんのでご注意。

  • 長期作業記憶の話を聞いた際、コンピュータのスワップ領域みたいなものかとすぐに連想したが、コンピュータではスワップ領域を用いた際、通常のメモリを用いるのに比べて処理が著しく遅くなるが、人間の脳ではそのような処理能力の低下は起こらないのか気になった。

計算機のアナロジーはよく使われますね。全く同じというわけではないかもしれませんが、似たようなメカニズムとして理解できるかもしれません。授業でも触れましたが、認知科学/情報処理アプローチは情報科学/工学の発達に影響を受けていると思いますので。

次回は認知のステージの3回目として、意思決定(decision making) についてお話しします。行動経済学との接点も出てきます。お楽しみに。


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