【仕事/サービス】サービスとは何か、お冷の注文で一考する
20代半ば、飲食店の社員として1年半ほど働いたことがある。
その頃、私にかわいがってくれていた他店のオーナーさんがいた。
その方のしてくれた話でひとつ印象深いものがあるので、それを紹介したいと思う。
「お冷、いただけますか」
飲食店で良く聞くセリフだ。
お客として言うこともあるが、今回は店員としてお冷を注文された場合の話である。
貴方ならどうするだろうか?
もちろん、コップに入った水を用意することだろう。
それは間違いない。
ただそのコップを持っていく前に、ちょっとだけ考えてみて欲しい。
お客様は、どういった状況でお冷を注文したのだろう。
入店したばかりで、外が暑かったから?
辛いものを食べたから?
子供の飲み物がなくなったから?
食後に薬を飲みたいから?
そのオーナー曰く、ここでただ「氷の入った冷たい水をいっぱいに入れたコップ」を持っていくだけ、ではサービスとは呼べない。
暑いから、ならば氷水で正解だろう。
辛いから、ならば氷水だろうが、量も欲しいかもしれない。
子供用ならば、コップはプラスチックで氷も抜いたほうがいいかもしれない。
薬を飲むためならば、氷抜きで量も半分くらいでいいかもしれない。
お客様の意図を汲み取り、必要であれば確認も取っていい。
もし確認を取るタイミングがなくても、せいぜいお冷なので数パターン用意して持っていき、選んでもらってもいい。
そうすることで、お冷たったひとつでもお客様の満足度が格段に上がる、それこそがサービスだ、というのだ。
社会経験を積んだ大人からすると大したことではないかもしれないが、当時の私はサービスのサの字も理解できていない若造だったため、この話は目から鱗だった。
おそらく何も考えずに氷水を持っていくタイプの店員だったと思う。
その後、お冷の注文があった場合に実践してみたのだが、目に見えて感謝の言葉を多くいただけた。
本当に一言「お薬用でしたら氷は抜きましょうか?」と聞くだけで、お客様からはとても嬉しそうに「はい、ありがとうございます」と返事があるのだ。
なぜ「それ」が欲しいのか
よく聞く「ドリルを探している客が欲しいのはドリルではなく、穴だ」という話がある。
良い店員はどんなドリルを探しているか、ではなく、どんな穴を開けるためにそのドリルが必要かを聞く、というものだ。
今回のお冷の件も、根本は同じだ。
ただのお冷、されどお冷。
お客様が今求めているものは何か、これを敏感に感じ取るアンテナは、今の私の色んな仕事の面で役立っている。
この感覚は、常に磨いておきたいものである。
たぶん疲れてたけど、これはこれで良し
ここからは余談だが、年始のランチタイムで鼻血が出そうなほど忙しいときに、男性4名のテーブルで食後にお冷を注文された。
その際に耳に入ったのだが、彼らはマンガ「ジョジョの不思議な冒険」の、ギャンブルで相手を出し抜くダービーという敵の話で盛り上がっていた。
普段なら聞き流すのだが、年末年始の激務で疲労困憊の私。
きっとお客様との触れ合いに飢えていたのだろう。
4名分の氷水とは別に、表面張力ギリギリまで水が入ったコップをテーブルの中央に黙っておいてみた。
劇中で登場するシチュエーションを真似たものだったが、これが大ウケ。
「お兄さん、わかってる!!!」
「Yes!Yes!Yes!」
とお褒めの言葉を頂いた。
本当はそこで会話に参加したいところだったが、前述の通り激務のまっ最中。
私は一礼をして、クールに去るのであった。
あれはあれで良いサービスだったと思っているのだが、ちょっとやり過ぎだった気もする。
まぁ、お互いに思い出に残っているのであれば、良しとしよう。