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4ヶ月ぶりの太陽

おそらく今年のノンフィクション最大の興奮であろう角幡唯介『極夜行』を読み終えた。

舞台はグリーンランド。旅のスタートは北緯78度付近で、超極北エリアにある小さな猟師村シオラパルク。先住民が住む集落としては世界最北端である。そこからさらに北へ単独行する話、と説明するとどこかで聞いたことがありそうな極地の冒険記かと思われるかもしれないが、本書はハンパじゃない条件が追加されている。「極夜」だ。

▼極夜… それは太陽が地平線の下に沈んで姿を見せない、長い、長い漆黒の夜である。著者は、そこに行って、太陽を見ない数カ月を過ごした時、自分が何を思い、どのように変化するのかを知りたいと考えた。そして極夜が明けた時、太陽を目にして何を感じるのか。

▼気温はマイナス30度前後、ひたすら暗闇の中、ブリザードと戦い、熊に怯え、食料が不足し、迷子になり……だれが好き好んでこんな状況下に身を投じるのかと、おそらく人類で著者が最初で最後だろう。もうアホかと。

 そろそろ起きるかと目を開くと、そこには孤独で絶望的で重苦しい闇しかない。ヘッデンの灯りをつける。すると結露しまくって冷蔵庫と化した冷え冷えとしたテントの真っ白い生地が照明の先に照らされる。全てを凍てつかせる冷酷な空気、この半径何百キロのなかに生存している人間は自分しかいないと言う孤絶感、それらが闇の絶望に拍車をかけ、起床の瞬間に全重量を持って私にのしかかってくる。今日も暗くて寒いと言う厳しい現実がヘッデンの照明の先で明らかとなるのだ。当然、外に出たくないと言う葛藤が始まる。その巨大な絶望の重みに逆らって寝袋から出るためには、今日歩かなければ村に戻れないかもしれないという、より深刻な現実を、天秤にかけて意志の力を総動員する必要があった。毎日、毎日、そういう暗さ、寒さ、孤独とか苦闘する朝が続き、私は心底うんざりしていた。
(本文より)

▼4ヶ月ぶりの太陽に、彼は何を思うのか。おそらく人類のほとんどにとって太陽があることは当たり前で、むしろ当たり前すぎてその存在すら意識しない。それだけに太陽が昇らない世界というのは想像を絶するわけで、この極夜という想像を超えた空間状況だからこそ辿り着くなにかが、この探検にはあったわけだ。

太陽を渇望する疑似体験をこの本で得ることができる。
….そんな体験する必要がないんだけれど笑

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Enzo Suzuki
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