どうして人間は失敗してしまうのか

 1970年代にサミュエル・ゴロビッツとアラスデア・マッキンタイアという二人の哲学者が書いた短いエッセイがある。


 彼らは、どうして私たち人間は失敗してしまうのかについて考えた。二人によれば、多くの場合は「無理」が原因だ。私たちは、この世界の大部分を理解することも、それに対して影響を及ぼすこともできない。科学技術の助けを借りても、私たちの肉体と精神には限界がある。人間は全知でも全能でもないので、どうしても無理なこともあるのだ。
 一方で、高層ビルの建設、大雪の予知、心筋発作や刺し傷の患者の治療など、私たちができることもたくさんある。そして私たちが何かをできる領域では、失敗の原因は二つだけだ、とゴロビッツとマッキンタイアは言う。

 一つめが「無知」である。化学は発達したが、わかっているのはまだほんの一部だ。建設できないビル、予知できぬ大雪、治せない心筋発作など、私たちが知らないことはまだまだ多い。二つめが「無能」だ。正しい知識はあるのだが、それを正しく活用できない場合を指す。設計ミスで崩落する高層ビル、気象学者が予兆を見落とした大雪、凶器が何だったかを聞き忘れることなどがこれに当たる。

 人類の歴史の大半では、「無知」が一番の問題だった。その最たる例が病気だ。ほんの少し前までは、病気の原因や治療法などはほとんどわかっておらず、人間は病気にされるがままだった。だがここ数十年で、無知と無能のバランスは驚くほど大きく変化してきた。私たちが急速に知識を得たことで「無能」は「無知」に負けないぐらい重要な問題となってきたのだ。

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