【邪推】THE F1RST TIMESに見るソニーの狙い【ビジネス】
おはようございます。
エンタメ業界ではたらくサラリーマンです。
今回は「THE F1RST TAKE」の話題です。
一発撮りのパフォーマンスを鮮明に切り取るYouTubeチャンネル。 ONE TAKE ONLY, ONE LIFE ONLY. 一発撮りで、音楽と向き合う。
言わずと知れたYouTubeの音楽番組です。
チャンネル登録者数462万人を超えている人気チャンネルです。
その「THE F1RST TAKE」が、新しい音楽体験を味わえるプラットフォーム「THE F1RST TIMES」を開始するというニュースです。
このニュースをどう考えると面白いでしょうか?
今ある情報から、この先こういう展開になったら面白いな、というプランを紹介します。
※個人的な妄想を多分に含んでいますから、あくまでエンタメとしてお楽しみ頂ければと思います。
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結論から言うと「業界の垂直統合」を狙っているのかな、と思いました。
なぜ、そのような推測をするのかと言えば、これまでソニーは、コンテンツ開発やホール運営は手掛けてきましたが、メディアを持っていなかったからです。
アーティストの発掘、そして発表の場を押さえたのであれば、あとはそれを告知する手段が必要になる、つまりオウンドメディアが必要になるからです。
これで、コンテンツ・メディア・会場という、音楽活動に必要なツールを全て兼ね備えた状態が完成します。垂直統合の状態です。
この記事では、ソニーがこの先に何を狙っているのかを推測してみたいと思います。
その上で、業界全体の構造をどのように読み解くのか、について解説していこうと思います。
大きな流れを掴むことで、業界人にとってはビジネスのチャンスを見抜くことが出来ますし、これから音楽業界を目指す人にとっては、何を勉強して、どこで働くのかを検討する材料になりますから、是非最後までご覧ください。
オウンドメディアの必要性
自社でメディアと持つ必要性についてです。
ここ数年の音楽業界の状況については、詳しく説明するのは避けます。
過去にいくつかの記事でも紹介していますので、そちらをご覧ください。
かつては巨大なプロダクションの元統合されてきた芸能界は、この数年で細分化されてきました。
さらに、テレビやラジオといったマスメディアによるプロモーションの弱体化によって、広告宣伝費も分散させざるを得ず、そのために効果も落ち込んできました。
同時に、音楽に視聴環境の変化も進みました。
今では、YouTubeを中心として、ストリーミングに大部分移行しました。
人々が情報を得るツールはYouTubeであり、SNSになりました。
テレビ番組で最新の音楽情報を得る人はほとんどいません。
そんな中、「THE F1RST TAKE」の企画は鋭い切り口でした。
それが、一発撮りです。
ミステイクだろうが、納得いかなかろうが、問答無用にアップロードされる、シャレの通用しないこの企画がもたらす緊張感が、まるでライブのような特殊な体験が魅力を生み出すコンテンツになりました。
実際にそれがウケて462万人ものチャンネル登録者に顕れています。
インターネット時代の成功法の一つに「まずはとにかく人を集める」というのがありますが、
2019年11月に開設されて、約1年半の総再生回数は12億回(2021/6/25現在)にまで登っているわけですから「THE F1RST TAKE」はそれを達成したと言えると思います。
これは既に立派なメディアと言えますが、やはり音楽の、アーティストのブランディングというのは、音楽そのものだけで構築するには少し足りないのです。
そこにはやはり、視聴者をファンにするストーリーが必要になります。
そのためにテキストというのは重要な役割を果たします。
やはり、歌や楽曲の背景にあるアーティストの想いや、活動の歴史やモチベーションと言ったものを知りたいものです。
知らなくても、新たに知ることでファンになることも多いのではないでしょうか。
まだ実装されていませんが、「THE F1RST TIMES」のメニューには「INTERVIEW」という欄があります。
ここでアーティストから語られるテキストというのは、YouTubeの「THE F1RST TAKE」に誘導するには強力な導線になることが予想できます。
音楽と向き合う時間は、人によって環境が様々だと思いますが、テキストであれば割とカジュアルに触れられることもあり、必要な媒体になります。
Twitter等での拡散にもニューステキストは向いてます。
気軽に拡散できるツールとしても「THE F1RST TIMES」は有効なツールになることが予想されます。
これだけ巨大なYouTubeチャンネルを補足する、テキストベースのメディアのブランディングとしては、充分なものではないでしょうか。
そして、何と言っても注目したいのはここです。
今日では、チャンネル登録者が462万人を超え、日本の音楽ジャンルのYouTubeチャンネルのなかでも唯一無二の存在感を放ち、海外のチャンネル登録者も3割を超えているグローバルチャンネルとなっている。
462万人のうち、海外の登録者が3割を超えているというのです!
すごくないですか?
ということは約140万人が海外からの登録者なのです。
ここに可能性を感じます。
日本のアーティストを海外に出していくために必要なプロモーションを「THE F1RST TIMES」が担うことが出来るようになる、そんな可能性があるのではないでしょうか。
ソニーが本気で海外も視野に入れた活動をしようとしていると、私は感じました。
厳密にいえばソニーは、日本人アーティストや、日本のコンテンツを、国外でも売ることに本気になってきた、でしょうか。
テキストベースだと、他の言語への翻訳も比較的簡単です。
同じ情報を、英語、中国語で展開出来るようになれば、日本の音楽に興味を持ってくれた海外の人に対しても、より日本の音楽シーンを理解してもらえるようになるのではないでしょうか。
海外市場を目指す際には有力なメディアになることを期待したいと思います。
どこもやってこなかったオウンドメディアを運営することで、よりソニーが持たなかった領域をカバーできるようになったと見ることが出来ると思います。
これで、コンテンツを生み出し、ホールを運営し(Zepp)、そしてメディアを運営することで、音楽活動に必要な主な要素は全てグループ内でカバーできる、垂直統合出来るようになるのではないでしょうか。
垂直統合を目指す理由
そう思う理由は、2つあります。
一つは、本当に邪推で余計なお世話ですが、Appleにやられた教訓を活かしているから、でしょうか?(笑)
かつて、ソニーはiPod/iTunesでAppleにしてやられた経験があります。
詳しいことは割愛しますが、スティーブ・ジョブズの自伝を読んでもらえれば、その背景は分かると思います。
自社の中で持っている事業をうまく協力させられなかったことで、Appleに出し抜かれた経験があります。
エンタテインメント分野はソニーにとってもチャンスの領域なので、この分野では負けたくない、過去の教訓を活かして勝ちたい、と思っているのかもしれません。
もう一つは、音楽業界の構造が変わってきて、川上から川下までの機能を、一気通貫で持たないと利益を生み出しにくい構造になってきたからです。
音楽あたりの利益率の低下に加えて、プロモーション費はこれまでと同額では効かなくなってきており、同じ費用でもやることが増えたりして、単体のアーティストの宣伝にかかる費用と労力が膨大になっています。
一番儲かるライブ・コンサートは、少子高齢化が進む中、海外への市場を求めなければ、長く続けていくことは難しい状況です。
これまでのように、マネージメントだけ、レコードだけ、ライブだけ、プロモーションだけ、会場運営だけと、細分化してしまうことでそれぞれに報酬が必要なので高額になることもありますし、個別最適を追求するために、うまく連携が取れないこともあります。
海外に目を向けてみると、世界最大のプロモーターLive Nationは、15年ほど前から「マドンナ」と包括契約をしたり、チケット販売会社Ticket Masterを傘下に収めたり、ライブ配信会社Veepsを買収したりと、周辺事業の統合を進めてきました。
ストリーミング大手Spotify(Spotify Technology SA)には、ユニバーサル・ワーナー・ソニーが出資もしています。これは、統合とは違いますが、周辺事業と利害関係を深めているというベクトルに注目する必要があります。
大きなトレンドを見ても、周辺領域の買収や協業は避けられない状況です。
日本でも既に、レコード会社がコンサート制作もする、アーティストとマネジメント契約をする、ということもありますし、プレイガイドがアリーナ会場を所有する、というのもあります。
従来の本業の補強になる領域に進出しています。
それらを踏まえて「THE F1RST TIMES」の動きを見てみると、自社のメディアを強化する方向に注力しようとしている、と見ることが出来るのではないでしょうか。
「THE F1RST TIMES」が面白いのは、「THE F1RST TAKE」という企画を中心に置くことによって自社所属ではないアーティストとも関係値を作り、大きなチャンネルブランドを作り上げ、そのブランドパワーをメディアパワーに転嫁する試みです。
メディアのパワーというのは、コンテンツの力だけで成り立つわけではありません。
権威性や拡散力、というのが重要になります。
かつてマスメディアが持っていた要素ですね。
「テレビや新聞の情報だから信頼できる」(権威性)とか「流通網を持っているから確実に家庭に届く」(拡散力)とかですね。
ニュースや記事の内容そのもの(コンテンツ)にいくら力があっても、その内容に対して人々が集まるだけの力や信頼性(権威性)がなければ、そして実際に届けられなければ(拡散力)、コンテンツの力を最大限発揮できているとは言えないのです。
コンテンツの持つ魅力も、SNSによる拡散も必要ですし、テキストによる解説も必要です。
「THE F1RST TAKE」をテレビ、「THE F1RST TIMES」を新聞、と位置付ければわかりやすいかもしれません。
「THE F1RST TAKE」「THE F1RST TIMES」、今後の動きに注目です。
これによってソニーは、コンテンツ・メディア・ホールという音楽活動に必要なものを全て自前で持つことが出来るようになるのです。
業界の中でのポジションとその狙い
ここまで見てきたように、垂直統合が完成すると何が起きるか、というと、アーティストはソニーと組むといっぱいメリットがある、ということになります。
まず発掘(「THE F1RST TAKE STAGE」というオーディションもやっています)から始まって、「THE F1RST TAKE」出演、「THE F1RST TIMES」で露出、全国Zeppツアーまでが、全てソニーグループの中で完結するのです。
さらに出口には、アニプレックス(アニメ)やソニーピクチャーズ(映画)の主題歌というタイアップというメリットもあります。
実際には、そんなシンプルな話ではないことは分かっています(笑)
しかし、自前でそこまで持っているプロダクションは他にありませんから、かなりユニークなポジションであることは間違いありません。
少なくとも、ここに追随出来る国内のプロダクションは無くなるのではないでしょうか。
多角的に経営しているソニーだからこそのポジションということになると思います。
自分がアーティストだったら、個人では出来ないことがソニーなら出来るように感じました。所属した方がメリットが大きそうな感じがするのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
メディアパワーが低下する中で、課題はプロモーションということはこの5年くらいで特に顕在化してきていました。
「THE F1RST TIMES」には、ネットメディアの中で強力に成長する可能性があるなと感じましたので、紹介させて頂きました。
ではなぜ、ソニーがこうした動きをするのかな?と考えたときに、やはり自前で完結できる仕組みづくりに動いているのかな、と思いました。
そうすることでどういう状態が実現できるのかな、と思ったときに自分がアーティストだったら、この状態のソニーに所属した方が個人でやるよりメリットが大きそう、と感じました。
これによって日本のアーティストが海外に出やすい状況にもなっていくのかな、と思いました。
期待と願望が入り混じってますが、今後も「THE F1RST TAKE」「THE F1RST TIMES」には注目していきたいと思います。
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最後に「岡崎体育」さん出演の「THE F1RST TAKE」を貼っておきます。