AIバトルーNew York Times対OpenAI
2023年12月27日、New York Times(NTY)がOpen AIを著作権侵害でニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に訴訟を提起したニュースはみなさんご存知かと思われます。
69頁にわたる訴状も公開されております(訴状はこちら)。
こちらの内容は、さまざまなニュースで紹介されていますので、詳細はニュースにてご確認をいただければと思いますが、主な内容としては、NYTの記事をOpenAIがChatGPTに許可なく学習させたことによる著作権侵害が争われています。
訴状の中でも、またOpenAI側の公式ブログの反論でも記述がなされておりますが、NYTはMicrosoftと本件に関する交渉を行っていたようですが、その中で訴訟が提起された模様です。OpenAI側からは、交渉は建設的に進んでいたように見えた、訴訟はNYTの記事を読んで知ったと記載されておりますので、訴訟自体はOpen AI側にとって予期しないものだったのかもしれません。そのため、NYTとしては、OpenAIとの交渉戦略の一つとして、訴訟を提起した可能性も大きく考えられます。
この訴訟に対して、Open AI側も、2024年1月8日付公式ブログにて、NYTの主張は根拠がないと主張しています。主な著作権法上の反論としては、利用目的はTransformativeであり、Fair Useに該当すると主張しています。こちら自体は、従前より米国のGoogle Books訴訟などの判例を踏まえると、Fair Useに該当する可能性はあるとの議論はなされており、そのようにOpen AI側が主張するのは理解しうるところではあります。
また、NYTの訴状においては、いくつかの「吐き戻し(Regurgitation)」について、いくつか具体的な事例が出されています。下記は、NYT側が、NYTとChat GPTの出力が実質的に同一であることを示すために訴状に記載されています。
上記について、OpenAI側は、AIに吐き戻しをさせるために故意にプロンプトを操作したものであり、AIに吐き戻しを指示するかあるいは何度も試行を行った上で、都合の良い例だけを引っ張ってきているものであり、NYTがいうような行動は行わないのが一般的である、と反論しております。また、このような吐き戻しを行わないよう、日々システムの向上に努めている、とも不言しております。
今まで、生成AIについて、いくつか米国で訴訟が提起されてきましたが、個々人が生成AIに訴訟を提起する形のものも多く、実質的な判断が多く行われてきたものではないようにも思われます。上記のとおり、今回の訴訟はNYTの交渉戦略の一部の可能性も大いに考えられますが、もし裁判所がFair Useに関して何からの判断にまで至る場合には、生成AIにとって非常に重要な興味深い判断になると考えられます。(なお、別の訴訟ですが、2023年9月14日、Thomson Reuters vs Ross訴訟で、Fair UseかどうかはJury Trialで調査すべきとのMemorandum opinionが出ておりますので、こちらも判断が進むのであれば、同事件の判断の方が早くなされるかもしれません。)
日本との関係を少しお話しすると、2024年1月15日に、文化庁の委員会が「AIと著作権に関する考え方について(素案)」を発表しています。現在パブコメ中ですが、その中で、AI事業者が開発・学習男系で用いられた著作物の創作的表現が「生成・利用段階において生成されることはないと言えるような技術的措置」を講じているような場合もあり、学習された著作物の創作的表現を生成・利用段階で利用されていないと法的に評価できるときには、AI利用者にとって依拠性がないと判断できるとしています(30頁)。また、そのような措置は、AI事業者が侵害の主体となりうるかの問題(規範的責任論)に関し、事業者が侵害主体と評価される可能性が低くなるものとしています。OpenAIが主張しているような事実は、上記にも関連することになると思われます。
日本・米国ともに、面白い論点が盛りだくさんですね。