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米国著作権局2025年1月のレポート

(※冒頭の画像はChatGPT/ DALL-Eで生成しております。)

米国著作権局は、2025年1月29日付で、“Copyright and Artificial Intelligence Part 2: Copyrightability”というレポートを発表しました (「本レポート」)。
今回のレポートは、2024年7月に出されたDigital Replicasに続く第2弾のレポートであり、AI生成物の著作権性について検討したレポートとなります。

著作物性に関する本レポートの結論を先に言いますと、AI生成物の著作物性については、当該生成物に人間の創作性があるかどうかで決定される(そのため、AIが生成したそのもにについては著作物性はなく、AI生成物に人間が寄与した場合には、その寄与に創作性があるかどうかで決定される)こととしております。

特に本レポートを読んでいて印象的であったこととしては、①プロンプトとAI生成物の連続性について様々な点が検討されていること、②本当にAI生成物を著作物として保護すべきかどうかという観点からの検討が行われていること、でした。

著作権法は、今までもさまざまなテクノロジーが生まれた際に問題となってきました。ただ、あるテクノロージーを創作の補助的なツールとして利用する場合と、AIを人間の創作の代替として利用することには大きな違いがあります。AI生成物の場合には、プロンプトに仮に著作物性があったとしても、AI生成物の著作物性とは別問題としています。特に、AIは、プロンプトからAI生成物がどのような影響を受けたかどうか開発者ですらわからない「ブラックボックス」であるとしています。そのため、非常に詳細なプロンプトは利用者の望む表現要素を含む可能性があるものの、基本的にプロンプトはAI生成物の「アイデア」であり、現時点ではAIシステムがそれらをどのように処理して生成物を生成しているかコントロールしていないことから、現在のAI生成物については、AIの利用者に創作性があるとまでは言えない、としています。

実際の例としては、以下の猫のAI生成物をあげています。

本レポート19頁
https://www.copyright.gov/ai/Copyright-and-Artificial-Intelligence-Part-2-Copyrightability-Report.pdf

ここでは、メガネをかけた猫がローブを着て新聞を読みながらパイプを吸っている、というプロンプトから出力されたものですが、例えば、このプロンプトの中でも、stormeyやwet、highly detailed woodといったものは写真に含まれていません。また、プロンプトに記載されていないものについては、AIが補っていることになります。例えば、新聞を持つ手が猫の手ではなく人間の手になってたり、どのような服の色とするか、表情はどうするか、などはプロンプトには記載がなく、AIが補完しています。そのため、全体として、AI利用者はアイディアを提供したに留まり、AI生成物の具体的表現を創作したとまではいえないとしています。

一方、本レポート26頁では、Midjourneyが提供するVary Region and Remix Promptingという機能を紹介しており、AI生成物を創作的な方法で選択・配置することにおり、結果として作品全体が著作物性を有するようになることもありうることに言及しております。
このように、米国においても、実際にその作品に対して人間の創作性がどの程度認められるか、それが著作物性が認められる基準に達しているのか、が著作物性の判断のポイントになるかと思われます。

2点目のAI生成物の権利付与の必要性に関しては、著作権で保護すべきか、あるいは新しい権利(sui generis rights)で保護するかなどが検討されています。特に著作権法で保護すべきかどうかにつき、「AI生成物に著作権を付与すると、創作へのインセンティブになるのか?」という問題点を提起しています。レポートにおいては、AIはプログラムされた通りに作業を行い、AIシステムにインセンティブはないことや、AI企業は現在著作権がなくてもシステム開発を行っていること、AI生成物という著作物が氾濫することで、人間の創作性に悪影響を及ぼす可能性があることなどを指摘し、現時点では現行著作権法を変更する必要はなく、著作物性は認める必要はないのではないか、と結論付けております。また、新設の権利を設ける必要もないとしています。

日本ではすでに文化庁がAI生成物と著作権の考え方についてレポートをしておりますが(本文はこちら)、今回の米国のレポートは、特にAI生成物に権利を付与するかどうかについて、インセンティブ論や国際的な競争力などの観点から検討を加えたものとなっております。この報告書が示す議論は、今後のAIと著作権の考え方を整理するのにとても役立つのではないかと考えています。


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