
サカナクション「怪獣」のストリーミング推移とヒット要因分析
はじめに
サカナクションの新曲「怪獣」は2025年2月20日にストリーミング配信が解禁され、NHKアニメ『チ。―地球の運動について―』の主題歌として話題となりました。本楽曲は、リリース直後からSpotifyやApple Musicのランキングを席巻し、日本国内で圧倒的なヒットを記録しました。
一方、Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」(以下「BBBB」)は、2024年初頭にリリースされ、SNSバイラルを通じて世界的なヒットとなった楽曲です。
本記事では、両曲のストリーミング推移を比較しながら、それぞれがどのような要因でヒットを生んだのかを詳しく分析します。
また、楽曲の公開タイミングやプロモーション施策、SNSでの拡散、ライブ・メディア出演などがどのように影響したのかを考察し、「怪獣」と「BBBB」のヒット構造の違いをリサーチしていきます。
ストリーミング推移の比較
「怪獣」のストリーミング動向
サカナクション「怪獣」は、リリース直後から日本国内で爆発的な再生数を記録し、Spotify Japanのデイリーチャートでは即日1位を獲得しました。Apple Musicでもトップソング2位にランクインし、国内ストリーミング市場で圧倒的な存在感を示しました。
「怪獣」の特徴的な推移:
リリース初日からピークに達するロケットスタート型のヒット
再生のほとんどが日本国内に集中(海外でのバイラルは限定的)
リリース直前のプロモーション施策(YouTube特番、ライブ初披露、コラボMV)が成功
初週のストリーミングチャート1位を獲得、その後緩やかに減衰
「Bling-Bang-Bang-Born」のストリーミング動向
一方、「BBBB」はリリース直後こそ緩やかなスタートでしたが、TikTokを中心としたSNSでのバイラルが爆発し、数週間後にピークを迎えるロングテール型のヒットとなりました。特に海外での人気が顕著で、Apple Music Globalチャートで2位を記録するなど、世界的なバズを巻き起こしました。
「BBBB」の特徴的な推移:
リリース直後は穏やかな伸び、SNSでの拡散が起点となり爆発
海外でのダンスバイラルによるグローバルヒット(欧州・中南米で特に人気)
TVアニメ『マッシュル』のOP映像とダンスの親和性が高く、視聴者が自然にSNSで拡散
その後もテレビ出演(Mステ、紅白など)やYouTube『THE FIRST TAKE』でさらなるブースト
リリースから半年以上たっても高いストリーミング数を維持するロングヒット
ヒット要因の分析

「怪獣」のヒット要因
1. 楽曲に関するイベントの積み重ね
2024年秋:アニメ『チ。』の放送開始、主題歌「怪獣」がTVサイズで使用される。
アニメ視聴者には曲のサビ(1番サビ)が毎週オンエアで耳に入る状況でしたが、フル尺や配信は解禁されず、ファンの間で曲の完成とリリースが待望される状態が生まれました。
2025年1月25日:全国ツアー「SAKANAQUARIUM 2025 “怪獣”」でフル尺を初披露
約3年ぶりの新曲ということもあり、会場のファンは大きな期待で迎え、SNS上でも「怪獣」初披露の報が拡散されます。山口一郎さん(サカナクションVo)がこの楽曲完成までに鬱病を克服し創作したエピソードがNHKスペシャルのドキュメンタリーで描かれていたこともありファンの渇望感が非常に高まっていました。
このツアーと本人のストーリー自体がプロモーション的な役割を果たし、楽曲への注目度を上げていたと言えます。
2025年2月19日:リリース直前にYouTube特番を実施
2025年2月20日:「怪獣」フル配信解禁、コラボMV公開、ストリーミング初日歴代最多記録を達成
具体的には、Spotify Japanトップ50で1位、Amazon Music「急上昇」1位、YouTube Music Trending 1位、iTunesランキング1位、レコチョク・LINE MUSICでも上位を獲得しています。
2. プロモーション施策
YouTube特番とコラボMV公開により、楽曲リリースの期待感を最大化
全国ツアーでの初披露がファンの熱量を高め、ストリーミング解禁への誘導に成功
アニメファン×サカナクションファンという強力な支持基盤
要因として入れてはいますが「アニメファン」自体は要因としては最も薄いのではと考えています。
「Bling-Bang-Bang-Born」のヒット要因
(既存の分析も多く既知の方が多いと思うので簡潔にしております)
1. SNSバイラルによる拡散力
TikTokでの「BBBBダンス」が世界的に流行(言語を超えた中毒性)
YouTube ShortsやInstagramリールで二次拡散、全世代に広がる
THE FIRST TAKEのパフォーマンス公開(3月)で再ブースト
2. グローバル市場での受容
アニメOP映像と楽曲の親和性が高く、海外アニメファンも即座に反応
Spotify・Apple Musicのグローバルチャート上位にランクイン
Mステ、紅白歌合戦などテレビ露出で日本国内の一般層にも定着
まとめ
「怪獣」と「Bling-Bang-Bang-Born」は、どちらもアニメ主題歌として誕生しましたが、ヒットの仕方は対照的でした。
「怪獣」は、事前の期待感を高めた計画的なプロモーション(要因が重なり結果的にそうなった可能性もありますが)とファンの熱量によって短期的な爆発的ヒットを生みました。
一方、「BBBB」は、ユーザー主導のSNSバイラルによる拡散力とテレビ出演による追加ブーストによって、長期にわたるロングヒットを実現しました。
そして「怪獣」が国内中心のヒットだったのに対し、「BBBB」はグローバルヒットにまで拡大した点も大きく異なります。
すなわち、「怪獣」はドメスティックな文脈ヒット、「BBBB」はグローバルな現象ヒットという構造上の違いがあります。
また、現状で「怪獣」は短期集中でのヒットといえるもののここからSNSなどを通して第二波・第三波と続き「BBBB」のようなロングヒットにつながっていく可能性は十分にあります。
ストリーミング時代、ヒット曲の生まれ方は多様化しています。
本分析で示したように、データで推移を追い可視化することでヒットの要因を後追い検証することが可能です。
今後もそれぞれの楽曲がどのようにロングヒットしていくか動向を注視するとともに、今回得られた知見を今後の音楽プロモーション戦略立案に活かしていけるでしょう。