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拡大する「推し活」をビジネス的な観点からリサーチしてみる。

推し活とは?現代の新しい文化としての広がり

「推し活」とは、自分が特に好きで応援している対象(=「推し」)のために行うファン活動全般を指します。
アイドルのコンサート参戦やグッズ収集はもちろん、アニメ聖地への旅行やキャラクターの誕生日祝いなど、その内容は多岐にわたります。近年この「推し活」は日本のポップカルチャーにおける社会現象とも言える盛り上がりを見せており、市場規模は年間8,000億円規模に達すると試算されています。
そんな推し活の歴史的な背景、SNS上の具体的事例、副次的な消費活動による経済効果、そして今後の展望についてリサーチしてみました。

推し活の歴史と発展の流れ

「推し活」という言葉の誕生と文化的背景

諸説ありますが「推し活」という言葉は、熱狂的なアイドルファン文化から生まれたとされることが多いです。。
もともとアイドルオタクたちが、お気に入りのメンバーを「○○推し」と呼び、その応援をまるで仕事のように熱心に行う様子を「推しごと」(おしごと)と自称していたのが始まりのようです。
この「推し」(お気に入り)という俗語と、婚活・就活などに見られる「○○活」という活動名を結びつけて、「推し活」という言葉が誕生しました。

広がりと多様化

当初、「推し」という表現は主に女性アイドルグループのファンを中心に使われていました。
2000年代後半に人気となったAKB48、その楽曲『チームB推し』の影響もあり、「推しメン」(一押しのメンバー)という存在が広く知られるようになったとも言われています。
これをきっかけに「推し」という概念はアイドル以外の領域にも波及し、アニメや声優、2.5次元舞台、ゲームキャラクターなど各ジャンルのオタク層にも浸透していきました。
現在では「推し」の対象は非常に多様化しており、二次元キャラクターはもちろん、VTuberやスポーツ選手、果ては鉄道・建築物・仏像に至るまで、あらゆる存在を「推し」として応援する文化へと発展しています。2021年には「推し活」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされ、一般社会にも認知される言葉となりました。

SNSが支えた推し活文化の発展

推し活文化がここまで定着した背景には、SNSの普及と社会環境の変化が大きく影響しています。
特に2010年代後半以降、TwitterやInstagramなどで自分の「推し」について発信・共有しやすくなり、同好のファン同士が気軽につながれるようになったことがブームを後押ししました。
こうした要因が相まって、平成中後期(2000年代〜2010年代)にオタク文化の一要素として育まれてきた推し活は、令和の時代に入り一層カジュアルかつ一般的な文化へと変貌したのです。

現在の主流としては、アニメ・ゲームなど二次元分野とアイドル分野が推し活市場の両輪になっているといえます。
実際、矢野経済研究所の調査によれば2022年度時点でアニメ市場規模約2,850億円、アイドル市場規模約1,650億円というデータがあり、グッズやライブ興行を含めた両分野の大きさが伺えます。もっとも推し活人口は若年層だけにとどまらず、中高年まで幅広い世代に拡大しています。
ビデオリサーチの調査では「日本人の4人に1人が推し活に関わっている」との結果も報告されており、推し活は今や一部のオタクだけの趣味ではなく世代を超えた国民的な娯楽になりつつあります。

Instagramでの事例

Instagramやでは写真映えする推し活投稿が盛んです。推しカラーのコーディネートを身にまとった“推しカラーコーデ”の自撮りや、部屋に飾った推しグッズのコレクション棚(通称「推し棚」)の披露、痛バッグ(推しキャラのグッズを大量につけたバッグ)の作品自慢など、視覚的に訴える投稿が多く見られます。
またライブやイベントに参加した報告投稿は特に「いいね」が集まりやすいようで、自身の投稿でライブ参戦報告が「最も反応が良い」と感じている人が多いというデータもあるようです。
こうした投稿を通じて「○○のライブ行ってきた!」という喜びを共有し、他のファンから共感のコメントが寄せられるのもSNS時代ならではの光景です。

Twitter(X)での事例

Xではリアルタイムな交流や情報戦が繰り広げられます。推しに関する最新ニュースや出演情報の拡散、公式アカウントへのリアクションに加え、ファン同士の「布教」活動も盛んです。
例えば推しの魅力を語り尽くす長文ツイートや、複数枚の画像・動画を添えて「この良さを分かってくれ!」とプレゼンする投稿が日常的に見られます。企業や公式もSNSを利用したファン参加型企画を仕掛けており、指定ハッシュタグで推しの好きなポイントを募集し、ファンがリプライで盛り上がるといったキャンペーンも実施されています。
ある企業の調査によれば、ファンアート(推しのイラストや画像)の投稿が最も頻繁に目に入るコンテンツだと答える人も多く、プロ・アマ問わず推しへの愛情を込めた二次創作イラストもタイムラインを賑わせている様子がうかがえます。
こうした場でファンは互いの推しへの想いに共感し合い、時にはSNS発のミームや名言が生まれてコミュニティ内で定着することもあります。

推し活の経済効果と関連ビジネス

推し活が生み出す新たな市場

推し活の影響はグッズ市場だけにとどまりません。
カフェ・イベント・旅行などの周辺産業にも多大な影響を与えています。
推しキャラやアイドルとコラボしたカフェは、特典グッズや限定メニューが人気を集め、期間限定イベントではファンが全国各地から訪れることで地域経済も潤います。
コロナ禍でも衰えず成長を続けたこの市場は、2.5次元ミュージカル市場に迫る勢いで、市場としては年間200億円規模とも言われています。
また、推しのいるライブや舞台を観るための遠征需要も高まり、ホテル・交通機関の利用率向上にも寄与しています。
コロナ後にインバウンド(訪日客)が回復しつつある中、「次回訪日時にアニメ聖地巡礼をしてみたい」という層も確認されており、海外からの“推し活聖地巡礼”も今後さらに増えると見込まれています。
聖地巡礼以外にも、推しの出演イベントに参加するため遠征旅行をするファンは多く、航空券や新幹線代、宿泊費などの支出も発生します。
地方都市で開催されるライブツアーは数千〜数万人単位のファンを動員し、ホテルが満室になるケースもしばしばです。

これからの推し活の未来とは?

ファンコミュニティの変化と深化

推し活が一般化する中で、ファンコミュニティの在り方も変化しています。かつては限られたオタク層の趣味と見なされていた推し活ですが、今では推し活」というポジティブな言葉に象徴されるように、ファン活動が社会に受け入れられ開かれたものになりつつあります。
SNS上で同じ推しを愛する仲間と出会い交流するのは当たり前になり、年齢や性別を超えた繋がりも生まれています。
例えば若者だけでなく中高年層でも「第二の青春」としてアイドルや声優を推す人が増えており、実際シニア世代の約25%が何らかの推しを持つというデータもあるようです。
一般化したこれからは「推し活=若者の趣味」という先入観が薄れ、誰もが気軽に推しを語れる時代になっていくかもしれません。
更には
推し活を通じて知り合った仲間と聖地巡礼ツアーに出かけたり、一緒にライブ遠征したりするケースも珍しくありません。
ファンコミュニティ自体がひとつの創造活動の場となっており、推しの存在を介して人と人とがつながり新たな体験を共有する文化が成熟しつつあります。

企業マーケティングのさらなる進化

推し活ブームの高まりを受け、企業もこの熱量をマーケティングに積極的に取り入れ始めています。ファンの「推しへの情熱」は消費行動の大きな原動力になるため、企業側も商品やサービスに推し活要素を組み込む戦略を打ち出しています。
例えばサンリオでは、自社キャラクターを推すファン向けのグッズはもちろん、他作品の推しグッズを収納・持ち運びできるアイテムを多数発売しています​。
ある化粧品メーカーは、人気アニメの登場人物6人のイメージカラー別コスメセットを発売し、それぞれのキャラクターを実写で演じる男性アイドルグループも起用するというコラボキャンペーンを行いました。
ファンは自分の推し色の商品を手に入れることで日常生活にも推し要素を取り入れられるため、企業側も複数色展開で購買意欲を刺激できます。
こうした戦略によりアニメファンとアイドルファン両方を取り込みSNS上でも話題を集めた成功例となりました​。

企業公式アカウントが推し活ネタを発信しファンと積極的に絡むケースも増えており、マーケティングにおいてファンとの共創(コ・クリエーション)を意識した動きも広がっており、推し活自体を応援するようなプロモーションも増えています。

そして企業による推し活マーケティングは今後さらに多様化・高度化していくと考えられます。
一つは異業種コラボの増加です。前述のようにアニメ×コスメ×アイドルのコラボ企画が成功したように、複数の業界の人気コンテンツを掛け合わせてファン層を拡大する取り組みが増えるでしょう。また、推し活をターゲットにした専門サービス市場も拡大する見込みです。
例えば「推し活グッズEXPO」のようなBtoB展示会が開催され、推し活関連商品のメーカーやサービス提供企業が一堂に会して商談を行う動きも出てきています。これは企業側が「推しビジネス」をひとつの産業分野として捉え始めたことを示しており、今後ますます新規参入が増える可能性があります。

今後、企業による推し活マーケティングはより高度化し、異業種コラボやデジタル技術を活用した新たなサービスが登場するでしょう。例えば、NFTを活用したデジタルグッズの展開や、メタバース空間での推し活イベントなど、新しい形の推し活体験が提供される可能性があります。

まとめ

推し活は今後もファン個人の楽しみを超えて社会・経済に影響を与える文化として発展していくと考えられます。
ファンコミュニティは年代や国境を越えて拡大し続け、企業もマーケティングにおいてファンの熱量を味方につける施策を深化させていくでしょう。
その結果、生まれるコンテンツやサービスの幅はさらに広がり、「推しを推すこと」がますます豊かで充実したライフスタイルの一部として定着していくと期待されます。


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