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   谷川岳/お母さん

 主人と谷川岳に登った。あいにく霧が濃く見晴らしはあまり良く
なかった。
 でもロープウエイの終点、天神平から山頂に到るまでの山道は、
ニッコウキスゲから始まりイワカガミやユキワリソウなどの高山植物が
かわいい花を咲かせているだけでなく、かなり起伏があり、木の根道や
砂利道、木道、階段、岩場、鎖場など変化に富んで面白かった。

 登りながら、ふと今までのことを振り返る瞬間があった。
 3人の子どもたちの顔が浮かんでくる。
 小さな時、お話が大好きだった長女。絵本を読んであげると目を
キラキラさせていたっけなあ。
 次女は何故か保育園のお友だちに好かれて、いつも何人もお友だちと
手をつないで歩いていたっけ……。
 三女は、とにかく甘えんぼで家に帰ると、まるで抱っこちゃん人形の
ように私の手足にくっついていたっけなあ……
 少し大きくなって、三人並んで台所の洗い物を洗ってくれた後ろ姿が
可愛くて、今でも時々思い出す。
 お姉ちゃんが下の2人を連れて、八百屋さんに買い物に行ってくれた
時は、八百屋のお兄さんが3人にアイスを持たせてくれた。
沢山誉めてもらったらしく、3人得意満面、ニコニコ笑顔で帰って
きたっけ……
 長い山道を歩きながら、ふと思い浮かんだ子どもたちの幼い頃の映像は、いつも私に笑顔をくれる。
 
 道沿いにいろんな花が咲いている。ほとんど名前はわからないが、
通りすがりの人が教えてくれる。
山に登ると皆親切で人に優しくなるのだろう。
 谷川岳は花の宝庫だ。雪割草と思った花はハクサンコザクラ、
薄雪草はエーデルワイスのこと、紫の花はハクサンチドリ……
まだまだ沢山あったが、ほとんど写真を撮らなかったので、
帰ってきて調べることもできない。
 ウーン、残念だ。
 次に山に行くときは、何かポケット図鑑でも持って行こう。

 山頂では、少し晴れて様々な花を見せてくれた谷川岳だが、下山を
始めて山小屋付近で少し休憩してたら、急に激しい雨が降り始めた。
 降ったり止んだりを繰り返しながら、最後は人生でこんなに雨に濡れた
ことはないと胸を張って言えるぐらい、びしょ濡れになった。
 天神平にやっと辿り着いた時は、ベンチに座るのも申し訳ないと
思うくらいに何もかも濡れていた。幸い着替えることができて、
やっと一息つくことができた。
 
 「人生山あり谷あり」とはいうが、ここまで濡れた時に合う言葉って
あるのかなあとぼんやり考えている。

 でも、またいつか登りに来よう。

 谷川岳はそんな思いになる山だった。

 

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