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生きるコツ12月4日「侍タイムスリッパーを観る・別にいいんじゃねえかと思わせる力」

 ようやく「侍タイムスリッパー」をT・ジョイPRINCE品川にて観る。評判通りの面白い映画であった。
 上映時間2時間11分という長さを微塵も感じさせないのは面白さの何よりの証拠だ。映画のエンドロールが終わり、真っ先に過ってたのは「愛」だった。廃れ行く時代劇に対する愛だ。

 とはいえ、映画の世界では時代劇は花盛りのようでもある。テレビにおける時代劇が廃れているということか。
 最近、「講談社ラボ」という映画クリエイター向けの企画を出していた最中でもあり、いろいろと勉強になった。特に脚本という観点でまず、振り返ると結構違和感はあった。冒頭の長台詞はやけに説明口調だなとか。初めて食べたおにぎりは白米だったけど、なんで海苔はついてないのか?とか(多分監督が米農家であることも関係しているのか)とか。なぜ、主人公の高坂は自分が江戸時代から来たことを告げないのか?映画の撮影に真剣を使うことに対し、手書きの達筆な文字で書いてることに周りの人間は疑問を抱かないのか?などたくさん違和感があるんだけど、

 「別にいいんじゃねえか」って思わせる力がある。
 
 これは何だろうか、役者の演技力がそう思わせるのか?コメディに野暮なツッコミはいらんだろということか。僕にも分析出来てないけど。本当に先に上げたツッコミはどうでもいい。
 出来ることなら違和感は減らし、嘘は減らし、リアルな心情を積みかさねたいはずだ。その辺の観客を興ざめさせない役者の上手さがあるんだろう。

 助監督役の沙倉ゆうなさんは出てくるだけでホッとするし、寺のご夫婦もまたいい。殺陣師役の峰 蘭太郎さんもまたいい。

 タイムトラベラーものって過去から来た人は「何で驚くのか?」って楽しみどころの一つだったりするが意外とあっさりしていて「白米」と「ショートケーキ」「テレビを観る」あと街中をふらつくラッシュシーンぐらいか。
 今年同じく流行った「不適切にもほどがある」では小ネタ満載で「シェイプアップ乱」からカラオケまで散りばめたけど、ほとんどなかった印象だ。

 脚本家目線で言うと削ったのかな。もっと大事なシーンに時間を割きたかったのではないかと推測する。
 でも今回の映画で何より秀逸だったのは、敵役がすでに未来へタイムスリップしており、スターになっていた展開は「そうきたかー」という感じで見事だった。元々の侍が現代に来るというのは役所広司さんのCMをヒントにしていたようだが、この敵役まで来て最後に剣を交えるという流れ、これに気付いた時、さぞや興奮しただろうなと思う。
 
 実際、最後のシーンは見入った。
 どれだけ、動かないのか?随分長い時間に思えた。
 本当の侍や、本当の合戦など知る由もないけどいいシーンだった。
 あと、高坂が関本さんに弟子入りするシーンも良かった。侍が殺陣師に構えを注意されるとき、「実戦はそうじゃない!」とか侍のプライドを考えると言いたくなりそうだがそうは描かずにひたすらにリスペクト目線で描かれる。この映画、全編にある殺陣師への、斬られ役へのリスペクトがある。(ベースには「5万回斬られた男・福本清三」さんへのリスペクトがあるようだ)

「人の悲劇とは目線を変えれば喜劇である」とはよく聞く話だが、
 この映画も基本は切なさがある。コメディでありながら切ない。
 幕末の武士という設定もそうだし、時代劇の衰退もそうだ。
 何より、映画作りが切ない。というか辛い。
 たまたま「奇跡の再現性」で第2のカメ止めと言われるが大半のインディーズ映画はもとより、メジャー映画だって一度こけたら次のお鉢が回ってくるとは限らない。
 監督が自腹で2000万円を出したというが中々マネ出来る代物ではない。それでも尚、映画の魅力にとり憑かれたものが挑むのだ。

 そのためにまず、食い扶持をキープすることから映画作りが始まってるんだよなと思うこの頃。第3、第4のカメ止めが出てくるといいな。僕も体が動くうちは挑戦したいものだ。

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島津秀泰(放送作家・動画制作・インタビュー・文章作成)
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