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『1917-命をかけた伝令-』

今年のアカデミー賞で撮影賞、録音賞、視覚効果賞等3冠を達成したサム・メンデス監督最新作『1917-命をかけた伝令-』を観に行った。

 作品が人を魅了するときってその多くは、例えるなら対峙した二つの椅子の片側に座る鑑賞者に対して、作品側は座るだけでなく、立ったりいなくなったり上や下やあらゆるところから出てきたりしながら、鑑賞者を驚かせ怒らせ感動させる印象がある。しかし本作は違う。作品側も対峙した椅子に深く座って鑑賞者と向き合い、一度も鑑賞者から目を逸らすことなく語り演じてくるのだ。すなわち小手先のイリュージョンを仕掛けることは全くできない、鑑賞者に嘘がつけないことを意味する。それは全てワンカット(のような)映像だからできた、兵士がリアルタイムでそこに「生きている」様子をおさめた作品づくりをしたからだと思う。俳優の演技、舞台セット、衣装に小道具に音楽に演出…目に見えるもの耳に飛び込んでくるもの全部本物でなければ「嘘」が簡単に見破られてしまうから。この作品のすごいところは、それら全てを「本物」として映し切ったことだ。スコフィールドもブレイクもたしかに生きているのだ。その結果、鬼気迫る緊迫感とともに類を見ないほどの臨場感を生み出し、鑑賞者である私たちも「Time Is The Enemy」(パンフレットの表紙から拾いましたが監督の言葉だそう)な気持ちで彼らと呼吸を合わせて最後まで走り抜くことができた。近年、演劇の世界ではイマーシブ(没入型)演劇が話題だが本作はまさに「"没入型"映画」だった。

戦争映画なのに観た後は心がすっきり浄化され穏やかな気持ちになるのも良いポイント。何度も観たいと思わせる。ストーリーも文句なしの出来かつ映画体験としての満足度もあまりにも高い。ちょっと今年の大傑作を観てしまった。個人的作品賞受賞をしてる。

ラストシーンと同じくらい、焼き尽くす戦火とそれを見つめる背中が美しかったのは皮肉だよなぁ。

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