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はじめに

 はじめに  あまりにも眠く、何度も目を擦りながら時計に目をやるともう譜面を書き始めてから三時間半ほど経っていて、音楽を生業にしてからは、十余年が過ぎていました。  令和四年が明けてすぐの頃、この「はじめに」を書き始めて、何にしてもこれが皮切りになるわけだから、と逡巡を重ね、のらりくらりと書き連ねてしまった四千字ほどを、たった今きれいさっぱり範囲指定して削除してやりました。やっと僕も、ちゃんとした気持ちで書けるようになってきたようです。  手書きかタイピングか、最近の芥川賞

    • いいわけ

       子どもの頃、よく父の隣でブラウン管のテレビを観ていました。古くなってきて画面が映らなくなったりしたら、うちの場合テレビの右側面を六割くらいの加減で叩くと映ったのですが、その役目は物心ついた僕の担当になっていました。だから僕はいつも父の右側でテレビを観ていました。  番組の選択権はもちろん常に父にありました。というか、それ以外はありえなかった。ある日、並んでテレビを観ていたらジョージ・マロリーの特集が始まりました。詳しい内容は忘れてしまいましたが、制服を着ていた憶えがあるので

      • 雑記・シャコが嫌い

         例えばある日ATMで残高を確認して、口座に百億円振り込まれていたとして、そのお金は貰えるとして、今の仕事を続けるかどうか。  とても意味のない「たら・れば」ですが、啓発系のSNSアカウントが呟いていた内容に少し肉付けしてみました。僕は今の仕事は、お金があってもやめられません。細かくは違いますが、簡単に纏めると、音楽にほんとうに依存して生きているからです。  僕の先生は日本を代表するオケの首席で、高名です。先生は「チェロは仕事」と公言しておられます。他にも、そういう方はたくさ

        • 雑記・勘違い

           昨年暮れに公開された映画『THE FIRST SLAMDUNK』を、高校時代の絵描きの友人と昨年内のうちに滑り込みで鑑賞しました。演奏とは関係ありませんが、『スラムダンク』は僕にとっても避けることのできないビッグタイトルです。高校からは音楽科に入学し(他に美術、映像、舞台の計四学科があり、先述の友人は美術科出身)、その流れのまま音楽大学に進学したので、具体的には中学時代だけということになりますが、僕は部活動というものやそれに纏わる上下左右のいざこざ、無闇な感動など、ほとんど

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          レッスン・言葉に至るまで

          レッスン①言葉に至るまで  演奏をするためには、まず楽器の奏法を学ばなければなりません。そのためにレッスンがあります。近年ではいわゆる見様見真似の我流、独学でも、ある程度精度の高い情報はたしかにネット上にも散見されるようになりました。その情報を精査する能力がないから、結局うまく使うことは現代ではまだ難しいことだとは思いますが。  つまりレッスンは、両立の難しいあらゆる方法論や流儀を定めて、先生からその限定された技術やそこに至るプロセスを教えてもらう場です。芸術、娯楽、趣味、

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          雨はなにいろ

          雨なにいろ  「わたし、雨女なんです」  ひと言でもう会場中が浮き足立っている。後ろに控えている、言わば「内情を知る」僕たちも、そういう道すじの通し方もあるのか、と思わず微笑んでしまう。MCやトークという観点で、だと思う。みんながステージの上で顔を合わせて朗らかに笑った。  僕たち音楽家はステージ上では自由だけど、それは奔放であることとは違う。例えばテニスラケットみたいな形をした「俺流」のバットを持ってきてもバッターボックスに立てないのと同じで、つまりあのスポットライトの中

          雨はなにいろ

          クロスオーバー・後編

          『前編』はこちら。 クロスオーバー・後編  僕たち演奏家にとって、従来のクラシック音楽に用いる西洋楽譜は、初めのうちはたんなる地図のようなもので、まずはとにかく直列に音が並ぶ「パート譜」のゴールまでたどり着くことに精一杯で、ある程度弾けるようになってきても、しばらくは自分のパートの譜面を読むのに目一杯時間を使うことになります。そこから一歩大きく足を踏み出して、アンサンブルなんてことになると、『クロスオーバー・前編』内で先述の「他の響きとのブレンド」という岐路にそこで初めて

          クロスオーバー・後編

          クロスオーバー・前編

          クロスオーバー・前編  僕が音大生だった十余年ほど前までは、少なくともチェロで(ガチで)クラシック音楽以外のジャンルを背骨として活動していた演奏家は、スタジオワークやアーティスト活動といった類いの商業ベースに乗った(悪い意味ではありません)音楽家の他にはそう見かけるものではありませんでした。言わずと知れた2Cellosの出現によって、またはその十数年前(平成初期~中期頃)のヨー・ヨー・マによるサントリーのテレビコマーシャルや『おくりびと』のような下地があって、日本国内でもチ

          クロスオーバー・前編

          雑記・経験を積む

             高校一年の夏休み、近所のマクドナルドのアルバイトに応募して、一ヶ月ほど働いたことがあります。アルバイトはその他にも英会話のティッシュ配りやとある運転スタッフ、学童の指導員など、両親のおかげで金銭的な「苦労」はありませんでしたが、例えばマクドナルドに勤めたことで、世の中にチェーン展開されているお店には「フランチャイズ」という契約があり、それは個人にとっては実は末恐ろしい仕組みであることもその頃知りました。コロナ禍にあって、家でただ練習していても仕方がないので近所でアルバイ

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          雑記・(裏)はじめに

           『はじめに』という記事を迷いながら書いたことは当該記事の通りですが、その時僕が一体何に迷っていたかというと、それは「どのくらいカッコつけて書くか」ということでした。  普段演奏していると、「ステージでは丸裸」と言いながら、僕たちはみんな「キメポーズ」や「必殺の音」を持っています。  音楽の根本に勝負事の性質はありませんが、表現の土壌に心があれば、常に己との戦いになります。昨日の自分に勝つ、前回のステージを越える、そんなジャンプ漫画の主人公のような真っ直ぐなものを、演奏家はみ

          雑記・(裏)はじめに

          楽譜・楽譜の読み方(僕の)

          楽譜① 楽譜の読み方(僕の)  母校、国立音楽大学で講師をしていた頃、初回のレッスン冒頭で、学生に必ず訊ねていました。 「楽譜には、何が書いてありますか?(慣れていないのでまだ敬語)」  そうすると大抵、学生のほうは副科目の先生の癖に重めの質問してくんな、という顔をしました。  それでも僕は推し進めます。 「まず五線、それでチェロの場合ヘ音記号、調号、音符、小節線、と続きますね?」 「はい」 彼、彼女らは、単位のために僕に付き合ってくれます。 「その他に、テンポ指示とか、発

          楽譜・楽譜の読み方(僕の)

          雑記・日本のクラシック音楽を(勝手に)考える

          雑記①  日本のクラシック音楽を(勝手に)考える  音楽の場合、およそ三百年ほど前に西洋で超流行っていたらしいJ.S.Bach(1685〜1750)の時代に究極とされた音を追求するための痕跡は、現代に至ってもかなり具体的な形を保って遺っています。地図、設計図、青写真…分野によってさまざま呼称されますが、今回の場合は、西洋音楽によって確立されていった大発明、「楽譜」です。  楽譜と聞いて早速げんなりしてしまった人や、生没年が添えられていても浮かぶイメージへ特に何も補填がされな

          雑記・日本のクラシック音楽を(勝手に)考える