王平伝 6-12
非番の兵たちが、調練場の隅を通ってどこかに行くのが見えた。軍市に行って旨いものを食い、女を抱くのだろう。金に困ることはないのだ。
軍人の俸給がまた上がったのだった。部下らは喜んでいるが、その俸給目当てに軍に入りたがる者が増えているため、夏侯覇はその人選に多忙だった。歩兵ならまだしも、騎兵は誰でもというわけにはいかないのだ。馬を乗りこなすだけでは駄目で、乗ったまま集団行動ができなければいけない。それには、才が要る。軍馬をただの物だと思っているような奴は問題外だ。
騎兵は集団で素早く動き、集約した力で一撃を狙うので、足手まといを一人入れるだけでその騎馬隊は力を落としてしまうことになる。体付きも重要で、大き過ぎると馬が早く疲れてしまい、これも集団行動に影響が出てしまう。
騎馬隊の戦は、人選から始まっていると、死んだ張郃は言っていた。
「次、乗れ」
新兵が返事をして一歩前に出た。
体格は、悪くない。夏侯覇はその新兵の顔をじっと見た。馬を前にして、その顔が一瞬たじろいでいた。乗る者の気持ちを、馬は理解する。これは駄目だ、と夏侯覇は思った。
案の定、その新兵はすぐに馬から振り落とされていた。
「だめだ、次」
体の大きな新兵だった。力はありそうだが、これは使い物になりそうにない。
「お前は歩兵だ、次」
言われた新兵が、顔を赤黒くさせ始めた。
「待ってくれ、俺はまだ馬に乗ってすらいねえ。それなのに、なんで」
夏侯覇は舌打ちをした。人選をやっていると、こうして駄々をこねる者は少なくない。
「お前は体がでかすぎる。騎兵には向かん」
「そんな、俺は騎兵になりてえんだ。なのに一目見ただけで駄目だなんて、あんまりじゃねえか」
夏侯覇は一息で飛びより、その新兵を蹴り倒した。
「なんだその口の利き方は。お前は歩兵にすらなれん。早々にここから立ち去れ」
夏侯覇は背を向け、手を振った。
「次」
言ったが、その新兵はまだそこからどこうとしていなかった。鋭い目付きでこちらを睨んでいる。こうなれば、もう斬るしかない。
夏侯覇は腰の剣に手をやった。新兵が、脅えもない目でこちらを睨み続けている。
剣を払い、首筋で止めた。刃が触れたところから、血が一筋流れた。それでも新兵は身じろぎ一つしない。なるほど根性だけはあるのだろう。
「貴様、怖くはないのか」
「騎兵になれないのなら、死んだ方がましだ」
言った新兵に、夏侯覇は一瞬気圧された。
「何故、騎兵になりたい」
「俺の親父は、張郃軍の騎兵だった。いや、でした。しかし前の戦で、帰らぬ人となりました。親父を殺した蜀軍に、俺は復讐してやりてえんです」
なるほどそうかと思い、夏侯覇は首筋から剣を離した。張郃と会う前、自分の中にも蜀軍に父を殺された恨みがあった。張郃から見た自分も、こんな感じだったのかもしれない。
「お前の父の名は、何という」
「徐唐、です」
部下の名前は全て頭に入れている。無論、その徐唐という名も知っていた。ただ名を知っているというだけで、顔まではよく思い出せない。今の世なら珍しくもない、名も無く死んでいく兵の一人だ。
「お前の父に免じて、一度だけ見てやろう。乗ってみろ」
その新兵は立ち上がり、馬を前にした。その様子を夏侯覇は凝視した。
馬の首に手を当て、何か語りかけている。そして馬に跨った。馬は嫌がることなく、その新兵を受け入れていた。
ほう、と夏侯覇は思わず口に出した。新兵を試すためのこの馬は、性格の荒々しいものを選んでいたのだ。馬上の新兵は、落ち着けと自分と馬に言い聞かせるように、ゆっくり胸を上下させ呼吸している。体はでかいが、旗持ちくらいはできるかもしれない。
夏侯覇は小石を拾い、馬の尻にいきなりぶつけた。馬は弾かれたように暴れだし、新兵は声を上げて落馬した。そして落ちた所で、涙を流し始めた。
「俺は、やはり駄目ですか」
「お前の名は」
「徐質」
赤く濡れた目を、徐質が向けてきた。
「泣いている暇はないぞ、徐質。俺の調練は厳しい。覚悟しておけ」
「え、じゃあ」
「軍営に行け。以後、軍内で泣くことは許さん」
「はい」
徐質は直立して答え、軍営の方へと走っていった。銭目当てのつまらない男ばかり集まるが、中にはこういう者もいるのだ。
それからしばらく人選を続け、五十人目が終わったところで切り上げた。この日の採用者は、徐質を入れて七人だった。
朝が終わり、営舎で昼食の支度をしていると、文官体の者が二人やってきた。姿格好で高官だとわかり、夏侯覇は直立した。顔は若く、自分と同じくらいだろうかと思えた。
「いや、そんな風にしないで楽にしてくれ、夏侯覇」
左目の下に大きな黒子がある男が言った。高官だが、顔に見覚えはない。中央からやってきた者だろうか。
「私は司馬懿将軍の長子で、司馬師という。後ろは曹真殿の甥である、夏侯玄だ」
「そのお二方が、こんな所に何用でしょうか」
「そう堅苦しくするな」
馴れ馴れしく肩を叩いてくる司馬師という男を、夏侯覇は不快に思った。いかにも前線の空気を知らぬ、中央から来た文官という感じを全面に出している。
「将軍から、軍営を見て廻ってこいと申し付けられまして」
後ろの夏侯玄が言った。
そういうことか、と夏侯覇は思った。まだ見知らぬ最前線の空気を存分に吸ってこいということなのだろう。
「わかりました。これから昼食なのですが、御一緒にいかがですか」
「いいな。軍の飯というものを、俺は食べてみたかったんだ」
やはり態度が気になったが、気にしないよう努めた。
軍営での食事は、穀物の玉を茹でただけの、戦時と変わらぬものを出していた。それは隊長級の者から兵卒まで、同じものを食う。
干し肉や野菜を練りこんだ玉もあったが、夏侯覇はあえて何も混ぜていないものを選んで従者に用意させた。味付けは、一撮みの塩だけである。
夏侯覇がなんでもないように茹でた玉を口に入れたのを見て、司馬師と夏侯玄もそれに続いた。
「なんだこれは」
齧ったものを手に吐き出しながら司馬師が言った。夏侯玄は、微妙な顔をしながらも、口をもごもごと動かしている。
「兵はこのようなものを食っているのか」
「兵にとっては大事な食糧です。そのように無駄になされないようお願いします」
言い草が気に障ったのか、司馬師が眉をぴくりとさせた。夏侯覇は気にせず、二口目を運んだ。
「他に何かないのか。軍には干し肉もあるだろう。持ってこさせろ」
「司馬師殿」
夏侯玄はそれを諌めたが、司馬師は無視していた。
夏侯覇はしぶしぶ従者に干し肉を持ってくるよう命じた。
軽く炙った干し肉が出され、司馬師が齧りついた。
「固いが、こっちの方がいいな。噛めば噛んだ分だけ味が出る」
「あまり勝手なことをされますと、御父上からお叱りを受けますぞ」
「つまらんことを言うな、夏侯玄。俺は俺なりに考えているのだ。兵に出すのはまずい玉より肉の方がいいのではないか。肉の方が旨いし、力も出るだろう」
「穀物の方が、調達が簡単なのです。家畜を育てるには数年を要しますが、穀物なら一年でいいのですから」
下らない質問だと思いながらも、夏侯覇は答えた。
「ふうん、そんなものか」
「乱世が続いて、働く人間が減っているからということもあるのでしょう」
夏侯玄が言った。
「そのくらいのことはわかっている。そうだ、お前ら血の繋がりはないが、同じ夏侯氏だ。これを機会に誼を通じておけよ」
「これから司馬懿将軍の下で働くことになりました。以後、お見知りおきを」
「こちらこそ」
夏侯覇は頷いた。司馬師は気に入らないが、嫌な顔をしながらも兵糧を平らげている夏侯玄には、少し好意が持てた。
「中央の宮廷は、ここでの戦をどう見ているのですかね」
「俺は父上に任せておけばいいと思っている」
「他には」
司馬師は面倒くさそうな顔で肉に齧りつきながら、お前が答えろという風に夏侯気に仕草をした。
「ここへの兵站を担当している者は仕事に精を出していますが、残念ながら、多くの者はどこか遠くでの出来事だと思っているようです。そういう者にとっては、戦の無い地で平和を貪ることだけが至上なのです」
「そういうものですか」
長く戦陣の中にあって、安逸の中にいるという感覚がわからなくなっているのかもしれない。平和を貪ることはつまらないことだと思えるし、少し羨ましいという気もする。
「父上が言っていた。平和を貪ることしかない者は、畜生と同じだとな。しかし心配するな、夏侯覇。来年には上方で大規模な徴兵を行い、蜀と呉の国境近くに配されることになっている。楽だけをしていては、魏の民でいられぬということを、奴らに教えておかねばならん」
そういうお前はどうなのだ。思ったが、それは飲み込んでおいた。
「そいつらを調練するお前には、苦労をかけるかもしれんが」
「苦労などとは思いませんよ。もしよろしければ、午後の調練をご覧になっていかれますか。新兵の調練なので、あまり派手なものはお見せできませんが」
「我々はそれを見に来たのだ。是非案内してくれ」
言って司馬師が残った肉片を口に放り込んだ。
夏侯覇は二人を連れ、調練場に向かった。部下が新兵を並び立て、それぞれに馬を割り当てている。いずれも、鞍の無い馬である。
「志願してきた新兵を裸馬に乗せ、一定距離を走らせます。足の締め付けだけで乗るのです。手を使うことは禁じていて、使えば次から手が縛られます」
「かなり厳しいな。それでは死ぬ者も出るのではないか」
「またいつ蜀が攻めてくるかわからないので、悠長な調練はしていられないのです。これができない者は、戦で第一に死にます。その時には、他の者を巻き込むことも珍しくないのです」
「二人死ぬくらいなら、一人を殺すということか。流石に負けを知っている将の調練には重みがあるな」
夏侯覇は、その言葉にひっかかりを覚えた。しかし調練開始の銅鑼が鳴らされたため、それは頭から払って目を調練に向けた。
馬が半里の距離を駆け始めた。少しの距離で半数が振り落とされていた。中には反射的に馬にしがみつく者もいる。夏侯覇は二人のことを一時忘れ、兵の見極めのためじっと目を凝らした。
一人も完走できた者はおらず、落馬した兵らはとぼとぼと戻ってきている。中には怪我をしている者もいる。
「過酷だな、これは。お前は兵の選別も厳しくしているようだが、こんなことで兵の補充は間に合うのか」
夏侯玄が言った。
「蜀軍には、精強な騎馬隊がいます。数だけ揃えればいいというわけではないのです」
「それは、蜀の王平とやらが率いている騎馬隊のことか」
「よくご存じで」
「戦の報告書には、一通り読んでいる。お前はその王平に、いいようにやられているようではないか」
夏侯覇は黙った。王平に負け続けていることは確かだが、戦を知らぬ中央の文官にとやかく言われる筋合いは無い。
「あの張郃将軍でも、そいつにやられたのだろう。長安の騎馬隊は北から良い馬を買っていると聞いていたが、ああも惨めなやられ方をしてはな」
張郃のことを言われ、頭がかっとなった。そして声を上げた。
「あれは、司令官の立てた作戦が」
「おい、それ以上はやめておけ、夏侯覇」
夏侯玄に止められ、夏侯覇はぐっと堪えた。どんな理由があろうと、軍内で上官の批判をすればただではすまない。まして司馬懿は、この軍内での最高司令官なのだ。
「平野での掛け合いなら、間違いなく張郃将軍は負けませんでした」
「ふん、不意打ちを喰らったのか知らんが、それも含めての戦だろう。軍人は、戦の結果が全てだ。違うか」
「……その通りです」
夏侯覇は目を閉じ大きく息をし、心を鎮めた。
二組目の新兵が並び、銅鑼が鳴らされたので、三人はそちらに目を向けた。
一組目と同じように次々と落馬していく。しかし中に一人だけ、落ちずに駆け抜けた者がいた。
「ははは。あいつは上手く乗るではないか。ああいう者が精兵に育つのではないか」
司馬師が嬉しそうに指を差しながら言った。
徐質だった。駆け抜けた徐質は、悠然と下馬して馬の首筋を撫でていた。
「調練の見物も面白いな。指揮官は、ああいった者を選抜し、戦場で動かすのだな」
司馬師の言葉が煩わしく、無視した。しかし司馬師の言うように、徐質は良い兵に育つはずだ。そのことだけを考えた。
「おい、夏侯覇。俺にもあれをやらせろ。兵のやることを知っておくことは、悪いことではないだろう」
「それは困ります。もし司馬師殿に何かあれば、私の首が飛びます」
「あまり俺を舐めるな。こう見えて、乗馬の心得はあるのだ」
「しかし」
「心配するな。何かあれば俺が親父に口を利いてやる。夏侯玄、お前も行くぞ」
「えっ、私もですか」
嫌な顔をする夏侯玄を引っ張るようにして、司馬師は馬の方に行った。そして部下が轡を持つ裸馬に司馬師が乗り、兵に尻を押されるようにして夏侯玄も乗った。司馬師はまだしも、夏侯玄は明らかに馬に乗りなれていない。
轡が離され、二頭が駆け始めた。
駆けると夏侯玄はすぐに落馬し、司馬師は少し進んだところで危険を感じたのか、馬を乗り捨てるようにして飛び下りた。
夏侯玄が、地にうずくまっている。
「大丈夫ですか」
夏侯覇が駆け寄った。夏侯玄の左腕が、おかしな方に曲がっている。
司馬師も近寄ってきて、腕を組んで困ったような顔をしていた。
「だから言ったのです。こんな無茶をして」
「その無茶を、お前は兵にさせているではないか」
言った司馬師を無視して、夏侯覇は曲がった夏侯玄の腕を手にした。
「少し、我慢してくだされ」
夏侯覇は折れた腕を引っ張り、骨をつないだ。夏侯玄が大きな呻き声を上げた。そしてすぐに養生所に連れて行き、折れた所に木の板を巻き付けた。
「これで安静にしておいてください」
「まいったな、これでは仕事ができん」
夏侯玄が苦痛に顔を歪ませながら言った。
「馬の乗り方も知らんのがいかんのだ。文官とはいえ、馬ぐらい乗れた方がいい」
ここまで黙って付いてきていた司馬師が言った。夏侯玄は、ただそれに苦笑を返している。
夏侯覇は、司馬師の顔を見ないようにした。腹が煮えているのだ。司馬師の顔を見て、その怒りを表情に出さないという自信がなかった。
「俺は軍営の方に戻っているぞ。痛みが和らいで歩けるようになったら来い。雑兵に情けないところを見せるなよ」
居心地が悪かったのか、司馬師はそこから出て行った。出て行くと、夏侯覇は一つ舌打ちをした。
「申し訳ない、夏侯覇殿。私が情けないばかりに」
「私が止めるべきでした。この責は、私にあります」
横になった夏侯玄の腕に、冷たい井戸水で濡らした布を当てた。かなり腫れていて、痛々しかった。
「悪く思わないでください。あの人も、あの人なりに考えているのです。それが今回は、悪い方に出ただけなのです」
「考え、ですか」
「ここだけの話、あの人は長安に来て不安なのです。戦などしたこともないのに、軍人の上に立たなければならないのですから。本来なら司馬師殿は、都で政務を粛々とこなすだけでよかったのです。それが、御父上が司令官であるため、こうして最前線にまで出てこなければいけなくなった」
「父がそうだからと言うのなら、我々もそうではありませんか」
そうですね、と言うように、夏侯玄は軽く笑った。
「あの人は、心が敏感なのです。鋭敏過ぎると言ってもいい。それで張らなくていい虚勢を、つい張ってしまう」
夏侯覇は頷いて答えた。
夏侯玄の表情が落ち着いてきている。冷やすことで、痛みが和らいできているのだろう。
「我々は同じ魏国の臣です。中には気の合わない者もいるでしょうが、上手くやっていかなければいけません。さもなくば、蜀にやられてしまう」
司馬師のことが気に入らなくても、顔を立ててやれと言っているのだろうか。つまらない者であろうが、組織に属せばそういうことも必要なのだろうということはわかる。もう、張郃の下で働く一人の兵ではなく、一人の指揮官になっているのだ。
「その通りです」
「有難い答えです。しかし私にはわかります。頭にきているのでしょう。言葉に出さずとも、あなたの発する空気がそう言っています。その性格のせいで、今まで数々の損をしてきたのだろうということも、なんとなくわかります」
それを聞いて夏侯覇が低く笑うと、夏侯玄も低く笑った。司馬師と会ってから、一度も出てこなかった笑みだ。この男となら、屈託なく上手くやっていけるかもしれない。
「魏の臣として、上手くやっていかなければならないと言っていましたな。なら今から、堅苦しい物言いで話すのはやめにしませんか」
夏侯玄は、何かを考えるようにして黙っていた。
「我らは、同じ夏侯だ。他人のように話すのはよそう」
「俺は馬から落ちて腕を折るような男だ。部下から舐められるかもしれんぞ」
「構わんさ。俺が前で戦い、お前は後ろで戦う。誰もお前のことを笑いはせんよ。俺ができないことを、お前はできるのだからな」
夏侯玄が鼻で一つ笑った。
「わかった。戦場で困ったことがあれば、俺に相談してくれ。できる限りのことはしよう」
「うむ、遠慮なく言わせてもらおう」
「負けを知っている者は、度量がでかいものだな」
「いきなり皮肉を言うか。次は負けないから、後方からしっかり援助しろよ」
「任せておけ。その代り、もう負けることは許さんぞ」
「負けるものか。もう、負けんよ」
夏侯覇は自分に言い聞かせるようにして言った。
そんな話をしていると、夏侯覇の従者が入ってきた。
「大将軍がお呼びです」
「もう来たか。さて、叱られてくるかな」
「心配するな、夏侯覇。何か言われれば、俺が弁護してやる」
夏侯覇はそれに頷き、養生所を出た。
軍営内の営舎に近づくと、怒鳴り声が聞こえてきた。司馬懿の声だ。
物憂い気分になりながら、夏侯覇は中に入った。
さっきとは違い、神妙な顔つきで俯いている司馬師が、鼠のように小さくなって座っていた。
夏侯覇を横目でちらりと確認した司馬懿は、司馬師を二つ三つと怒鳴りつけ、歩み寄ってきた。
「困るな、夏侯覇。お前の軍営で、曹爽殿の従弟をあんな目に遭わせるとは」
曹爽は曹真の子で、中央で力を持ち始めている文官だ。司馬懿との仲は悪くないと聞いていた。その関係にひびが入ることを憂慮しているのかもしれない。
「お前のやったことは、儂の顔に泥を塗ったも同然ぞ」
「申し訳ありません」
司馬懿の夏侯覇に対する態度は、前回の戦からきついものになっていた。この説教は、しばらく続くのだろう。
司馬懿の怒鳴り声に俯き、夏侯玄の言葉を思い返しながら、夏侯覇は耐えた。
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