東芝、日立、三菱 3社のフルSiCを比較する!
Ver. C
はじめに
みなさんこんにちは、ensen-yです。
今日は国内電鉄用インバータメーカの雄である東芝、日立、三菱電機のフルSiC(炭化ケイ素:Silicon Carbide)を比較していきます!
といっても、電車の性能の比較とかではありません。
3社の電鉄用インバータに使われているフルSiC(All-SiC)モジュールを比較していきます。
タイトルほぼ釣りですね。誠に申し訳ございません。
一度やってみたかっただけなんです。
比べるのはほぼ同じ見た目の黒い箱です。
今回比較するのは主に電鉄駆動用途で用いられる以下の三種のフルSiCモジュールです。なお、今回はすべて3300V-800A定格の素子で比較を行います。
東芝デバイス&ストレージ製
MG800FXF2YMS3ミネベアパワーデバイス(旧 日立パワーデバイス)製
MSM800GS33ALT三菱電機製
FMF800DC-66BEW
元々日立のパワーデバイス部門を担っていた日立パワーデバイスは2024年にミネベアミツミに売却されミネベアパワーデバイスとなりました。
これとは別にABB社(スイス)のパワーデバイス部門は現在、日立エナジーとなっています。
今回はこれまでに国内の日立製電鉄用フルSiCインバータに適用されてきた、ミネベアパワーデバイス(旧日立パワーデバイス)のフルSiCモジュールで比較を行います。
なお、日立のMSM800GS33ALTはステータスが現在開発中になっていますが、気にせず比較していきます笑
フルSiC素子のおさらい
ここで軽くフルSiC素子の概要についておさらいしておきます。
パワー半導体(半導体スイッチング素子)はインバータ等で電気を調節するために使う素子です。
このパワー半導体を使って高速に電気をスイッチングすることで電圧を制御します。
電車で使われるのは以下のような三相インバータが一般的です。
この一つ一つのスイッチング素子の横には還流ダイオードと呼ばれる素子が並列に繋がれています。
フルSiCとは一般的にこのスイッチング素子にSiC-MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ:Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、還流ダイオードにSiC-SBD(ショットキーバリアダイオード:Schottkey Barrier Diode)を用いたもののことを指します。
ちなみに、ハイブリッドSiCはスイッチング素子にSi-IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ:Insulated Gate Bipolar Transistor)を、還流ダイオードにSiC-SBDを用いたもののことを指します。
それでは、パワー半導体の主要性能項目についていきましょう。
特性を比較する
今回比較するのは、インバータ回路で一般的に用いられる2in1タイプと呼ばれるモジュールです。
2in1モジュールは一つの箱の中にスイッチング素子が2個入っていて、インバータのレグに相当する部分を一つのモジュールで作れるようになっています。
定格比較
まずは、素子の定格を比較していきましょう。
上の表に示したとおり、今回は3社ともに3300V-800Aモジュールで比較を行っていきます。
ジャンクション温度の最大定格も同じですね。この温度が高いと素子が高い温度に耐えられるので、冷却器を小さくしたり出来ます。
また、外形も業界標準パッケージのため、ほぼ同じ大きさかつ同じ端子配置です。
一方でゲート電圧の仕様は3社で異なりますね。
一般にゲート電圧を高くすることで、オン電圧を下げることができます。
東芝の素子はこれを狙っているように思えます。
(その代わり、負側の定格が小さくなっています。)
オン電圧特性比較
次に素子のオン電圧を比較していきましょう。
オン電圧とはスイッチオンの状態で素子の両端に発生する電圧の事です。
損失は電圧と電流の積になるので、オン電圧が小さいほど導通損失(素子に電気を流す時に発生する損失)が小さくなり高性能です。
ドレイン-ソース間電圧はMOSFETのオン電圧特性を指しています。
このグラフから概ね同等程度の特性である事が分かりますね。
関係にするとこんな感じです。
MOSFETオン電圧の大小関係 : 東芝<三菱<日立
ソース-ドレイン間電圧は還流ダイオードのオン電圧特性を指しています。
このグラフを見ると、東芝と三菱はほぼ同じ特性ですが、日立はオン電圧がかなり大きい事が分かります。
還流ダイオードはあまり電流が流れるわけでは無いですが、少し気になりますね。
還流ダイオードオン電圧の大小関係 : 東芝=三菱<<日立
スイッチング損失比較
次に、スイッチング損失を比較していきましょう。
SiC-MOSFETの売りはスイッチング損失の小ささですから、一番気になるところですね。
なお、ゲート抵抗値やその他条件は全てメーカ推奨条件で3社間で条件は異なります。細かい条件はデータシートを参照してください。
はじめにターンオン(スイッチオン時の)損失を比較します。
この結果をみると、東芝と三菱はほぼ同等なのに対して、日立はかなり大きく約4倍程度になっています。
ターンオン損失の大小関係 : 東芝=三菱<<日立
次にターンオフ(スイッチオフ時の)損失を比較します。
こちらは三菱が一番小さく東芝は三菱の2倍、そして日立はかなり大きく東芝の2倍以上、三菱の5倍以上になっています。
ターンオフ損失の大小関係 : 三菱<東芝<<日立
最後にダイオードのリカバリ損失(ターンオフ損失)特性を比較します。
こちらも、三菱の特性が一番良く、次に東芝となります。
そして、日立は桁が変わるくらいの大きさとなっています。
リカバリ損失はスイッチング損失と比べると絶対値は比較的小さいですが、ここまで違うとかなり気になりますね。
リカバリ損失の大小関係 : 三菱<東芝<<日立
日立フルSiCモジュールの還流ダイオード
ここまで、素子の特性を比較してみると日立のフルSiCモジュールの特性が明らかに低いように思えます。
特にリカバリ損失やターンオン損失、ダイオードのオン電圧特性が低く、本当にSiC-SBDが付いているのかな?と疑問に思いデータシートをよく読んでみると…
SBD-less SiC module…
どうやら本当に還流ダイオードにSiC-SBDは付いていないようです。
さて、これはどういうことでしょうか。
考えられるのは以下の3つ
外付けでSiC-SBDモジュールを取り付ける
社内向けにSiC-SBDも取り付けたモジュールをラインナップしている
MOSFETのボディダイオード通電を許容する
一つ目は簡単で別にSiC-SBDモジュールを接続するというものです。
ちなみに2in1タイプのSiC-SBDモジュールもラインナップされています。
(日立 SiC-SBDモジュール:MDM1200F33-C3)
二つ目も同じで、社内の電鉄案件向けにはSiC-SBDを接続したモジュールを提供しているというものです。
無い話ではなさそうです。
最後がSiC-SBDを取り付けず、ボディダイオード通電を許容するというものです。
まとめ
さて、今回の記事では日本を代表する重電3社のフルSiCモジュールについて比較してみました。
今回の記事はほぼ私の備忘録のようなもので、初心者の方には難しい内容だったかもしれませんが、なんとなく雰囲気だけでも分かってもらえれば嬉しいです。
さて、SiCデバイス応用でMOSFETの実用化が早かった三菱電機は高耐圧素子の特性でやはり他社をリードしているように思われます。
東芝は初期の頃にはJFET等についても検討していましたが、MOSFETの特性もかなり改善されているように思います。
そして日立です。日立のモジュールはSiC-SBDレスのようですね。
次回の記事では日立フルSiCインバータではボディダイオード通電を許容しているのかどうかについて考えていきたいと思います。
続きは以下の記事で
それではまたいつの日か。
変更記録
令和7年1月19日 Ver. A 発行
令和7年1月19日 Ver. B 発行
まとめ, 次回記事リンクを追加
令和7年1月21日 Ver. C 発行
ゲート電圧定格に関する追記