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EF510形は「EF64形の後継」になりうるか?

2021年3月末、JR貨物は2021年度事業計画において、九州地区にEF510形電気機関車を投入することを発表した。

2021年現在、九州地区ではEF81形、ED76形といった経年が30年〜40年程度の機関車が運用されており、現在日本海縦貫線(大阪〜青森)を中心に活躍するEF510形を新たに増備し、これを置き換えるものと思われる。

また、東海道・山陽本線を中心に長らく活躍を続けてきたEF65形・EF66形もEF210形による置き換えが進められており、JR貨物における国鉄世代の電気機関車の活躍もそう長くは続かないだろうという情勢である。

しかし、ここに至っても後継がはっきりしない機関車がある。

主に中央西線(中央本線の西半分、すなわち名古屋側)と伯備線で活躍するEF64形である。

EF64形は、1964年に登場した勾配路線用の電気機関車である。
最初に投入されたのは奥羽本線の板谷峠区間(当時は直流電化、後に交流電化への切替により撤退)で、その後は中央本線、上越線、伯備線を中心に活躍してきた。

EF64形の運用線区のうち、中央東線(中央本線の東京側)、上越線では、2001年〜2011年にかけて生産されたEH200形が投入され、置き換えられた。
しかし、これ以降EH200形の生産はなく、EF64形は中央西線と伯備線で引き続き活躍を続けた。

現在JR貨物で活躍しているのは、1980年〜1982年に従来タイプの各部構造を一新して生産された1000番台である。EF64形の中では新しい方であるが、それでも経年は40年に達しようとしている。

では、こちらのEF64形の後継もEH200形になるのだろうかとも思えるが、そうとも言えない事情がある。

・EH200形は10年以上生産されていないので、再生産することができるか、できたとして調達価格がどうなるか不明。
・JR東海区間にH級機関車が入った事例はほとんどない。JR東海とJR貨物のどちらからもこの件についてのコメントは発表されたことはないが、JR東海がH級機関車の通行を認めていない可能性がある。
・特に伯備線は中央東線、上越線より輸送需要が小さく、H級機関車を入れるほどではない。

このように、EH200形を再度生産し投入するにはいくつかのハードルがある。

さて、このタイミングでEF510形の増備計画が発表されたことで、一つの考えが浮かぶ。

EF64形の後継として、EF510形を使えないか?

今回はこのことについて検証してみたいと思う。

稲沢に留置中のEF64 1002号機(筆者撮影)
塗装は大宮工場で更新工場を受けた機体に特有のもので、「牛乳パック」の通称がある。

勾配路線用機関車に必要な要素


勾配路線用機関車には、どのような機能が必要だろうか。
EF64形と、同世代の平坦線用機関車EF65形を比較しながら考えてみよう。

勾配に対応する方法としてまず考えられるのは、モーター出力や歯車比を変えることである。
自動車でもそうであるように、動力を強化し、ギア比を大きくすれば勾配を登りやすくなる。

ところが、EF64形とEF65形の定格出力はどちらも2550kw、歯車比はどちらも3.83であり、ここには差がなかった。(特に歯車比が同じということには私も驚いた)

では、どこが違うのかといえば、「制御装置」と「ブレーキ」に最も重要な違いがある。

「制御装置」とは、運転士のスイッチ操作をもとにモーターに送る電気の量を調整する装置である。
自動車ならアクセルの踏み具合から燃料を送る量を調節するポンプに相当するだろう。

具体的な機構については割愛させていただくが、EF64形は低速域できめ細やかな制御ができるように、EF65形は高速域で効率良く走行できるように制御装置が作られているのだ。

「ブレーキ」も重要な要素である。
行きに坂を登るなら、帰りは下らなければならない。
安全に坂を下るためには、強力なブレーキが必要になる。
EF65形が装備しているのは、最も基本的なブレーキである「空気ブレーキ」であるが、EF64形はこれに加えて「発電ブレーキ」を装備している。

空気ブレーキは信頼性の高いシステムであるが、ブレーキを車輪に押し付けて減速する摩擦ブレーキであるため、連続使用によってフェード現象を起こす危険がある。
発電ブレーキとは、走行用のモーターを発電機として使い、運動エネルギーを電気に変換して減速するブレーキである。
摩擦力を用いないので、フェード現象の心配はない。
EF64形はこれを搭載することで、確実なブレーキを可能にしているのだ。

また、勾配に直接関係することではないが、EF64形はEF65形より寒冷地で運用されることから、耐寒・耐雪装備が充実している。

EF510形の場合: その特性と課題

さて、EF510形の場合はどうか。
・制御装置はVVVFインバータで、EF64形世代の抵抗制御から格段の進歩を遂げており、低速域から高速域まできめ細やかな制御を可能にしている。
なお、EF510形の歯車比は5.13と、EF64形・EF65形よりかなり高い。これは、同じ走行速度ならよりモーターの回転数がより高いということを意味する。
VVVFインバータ制御の採用によって、直流整流子モーターに代わり構造の単純な交流誘導モーターを使えるようになったことから、高回転が実現できたのだろう。
・ブレーキは空気ブレーキに加え、発電ブレーキも装備している。
・日本海縦貫線での運用を想定して開発されているので、耐寒・耐雪装備を有している。
中央西線は直流電化なのでEF210形でもよいようにも思われるが、EF210形には本格的な耐寒・耐雪装備がないと考えられる。

ここまで見ると、EF510形が勾配線区でも一定の活躍ができそうだということがわかるだろう。

しかし、やはり実績がないと不安なもの。EF510形が勾配20パーミル以上の路線で、重量級列車を牽引した実績は……


あった。

ただし、その列車は、貨物列車ではない。

JR東日本の寝台列車「カシオペア」である。

EF510形が「カシオペア」を牽引したのは2010年から2015年にかけての期間で、上野から青森までを担当した。
この区間には、「越河」「奥中山」といった峠越えがあり、その最大勾配は25パーミルに達する。
そして、「カシオペア」の編成重量は約500トンと、旅客列車としてはかなりの重量級であり、これはコンテナ貨車満載10両に相当する重量である。
なお、EF510形が投入される前、またEF510形がJR貨物に売却された後は、この区間を牽引しているのはEF81形だが、カシオペアの列車重量は性能上ギリギリであり、時々坂を登れず列車が遅れることがあった。

また、EF510形の直流電化・暖地での性能はEF210形とほぼ同じであるが、EF210形は前後2両で1300トン列車を挟み、22.6パーミルの「瀬野八」を登ることができる。
すなわち、EF510形も同じ勾配で650トンの牽引が可能といえるだろう。

このように、EF510形はEF64形を置き換えるに足る性能を概ね有している。

問題があるとすれば、EF64形にあってEF510形にない、重連総括制御機能ぐらいだろうか。
現在EF64形は中央西線の石油貨物列車で重連運転を行っているが、EF510形は機関車1両での運転を前提としているので、仮にEF510形が中央西線の運用に就いた場合、最大輸送量が少なくなってしまう。
今後増備されるEF510形や既存のEF510形に重連総括制御機能が搭載されなければ、伯備線はともかく中央西線への投入は難しいだろう。

逆に言うと、伯備線についてはEF510形の投入も十分考えられるのではないかと思う。

2021年7月追記

追記1
その後JR貨物は、EH500形の運用範囲を日本海縦貫線にも拡大すると発表した。その後、EH500-24を用いて日本海縦貫線・上越線で試運転が行われた。
EH500形の運用が開始されれば、EF510形の運用に余裕ができることになる。EF510形がどこに行くのか注目したい。

追記2
EH200-12が中央本線経由で恐らく初めてJR東海管内に入り、稲沢に向かったとのこと。
今後中央西線にEH200形が投入される可能性がかなり高くなったといえるだろう。
東海管内にこれまで8軸機が入らなかった理由は不明のままだが、動向を見守りたい。

伯備線はEH200形が必要なほど輸送量がないため、6軸機になるのだろうか。
伯備線は中央西線より雪も少ないから、EF210形の耐寒耐雪性能によってはEF210形の投入も考えられる。

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