『にれこスケッチ』偏愛にれこの生きる道
『にれこスケッチ』全3巻
鴨居まさね(祥伝社)
先日、私の好きな漫画『にれこスケッチ』の新刊が1年半ぶりに発売されて物語が完結した。ネタバレしないように紹介したいと思う。
下町のブラシ屋の三女”楡(にれ)”の話。30歳を前に家業のブラシ職人目指して仕事を祖母と母に教わりつつ、20年来大好きな既婚者清田くんを追いかけまわしつつ、別れてしまった元彼も登場してよりを戻すのかしらどうなのかしら…?というお話。
あらすじをサラッと書くと
職人の話?3角関係?既婚者と不倫?恋愛漫画?
と思われがちだが、読んでみると簡単に”○○漫画”とは言い切れない面白さがある。
いわゆる恋愛漫画は恋愛メインで、主人公の恋路を描くために様々な装置が用意されている。既婚者が好きな主人公&主人公の元彼が出てくれば、奥さんと主人公がバチバチしたり、どちらを選ぶかで揺れたり、誰かが恋路を邪魔したりしてくる。いわゆるお仕事漫画はフォーカスされる仕事があって、その仕事で発生するエピソードとがんばる主人公の成長をメインに描いていく。
でも『にれこスケッチ』は違う。もっと自然なのだ。
まず楡(以下にれこ)がいて、にれこの生活の中にはブラシ職人の修業という仕事があって、子どもの頃から一方的に大好きな既婚者清田くんがいて、家族がいて、ひょんなことから元彼も登場する。仕事を覚えたくてがんばるのも、誰かを熱烈に好きでいることも、親戚づきあいも、元彼との思い出もすべてはにれこの生活の一部であり、あらすじの行間を読んでいく漫画だと思う。
登場人物たちの人間関係も一風変わっている。
清田くんは傘職人で姉の同級生。にれこの母とは職人同士うまが合うようで年齢を超えた飲み友達。元彼はにれこの姉から猫を預かったり、にれこの従妹の娘とうまが合う。人間関係の妙が最後にピピッとつながってにれこの物語を包んでいく。
主人公にれこのいびつさもいい。ことあるごとに清田清田清田。でも奥さんとの仲を邪魔するわけでもなく、アイドルや二次元キャラへのあこがれにも似ている。家族仲はいいが友達はいない。あー、私も友達にはなりたくないかもなw既婚者との恋路を応援するわけにもいかないし、共感ポイントは少ない。でもにれこの偏愛っぷりがかわいくて、抜けてて半人前なにれこが好きだ。にれこがどんなに愛を傾けても脈ゼロな清田との決着のつけ方が、いじらしくて良かったなあ…
3巻で終わるのは寂しい。『雲の上のキスケさん』『君の天井は僕の床』と同様に鴨居まさねさんの漫画は”この先”が読みたくなるのである。ぜったいに”この先”があると思わせてくれる漫画だから。
新作を首を長くして待つことにする。
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