短歌連作「海へ向かった電車があった」
「閉まります」が「閉めます」になる瞬間の車掌の声が嫌いではない
遅延した電車の中で顔よりも耳のかたちを記憶している
踏切で手をふっている子の笑みを知る由もない満員電車
平日の駅の階段下る時快音響くビーチサンダル
ため息と疲れた乗客吐き出して折り返していく片瀬江ノ島
夕立が海になるのを見届けて飛び乗る電車がやさしく揺れる
みずうみが傘の先から広がって溺れる前に探すつり革
街灯りどこにも君はいないから流れる車窓が退屈すぎる
終電を見送る人のなだらかな肩に滴る白い月光
※連作短歌サークル「あみもの」第十九号より