短歌連作「春を待つ」
音のない午後にひかりがゆらゆらとつめたい雪見障子から降る
山茶花は涙をこぼすはらはらと冬空にもう別れを告げる
梅よりも早くさくらが咲くように天神様に祈る如月
雑踏に紛れるきみを焼き付けるコートの襟を立てた角度も
春色と君が言うから普段なら着ないタイプのワンピース買う
弁当に春をよびこむ桜色のたらこむすびに寄り添う菜花
いつぞやの押し花おちる夭逝の詩人の本からあふれでる春
猫が来てノックする窓 桃色の小さな花が咲いたみたいね
寒さなど忘れなさいと膨らんだ蕾かすめてまるく吹く風
いつかまた春が来るまでどちらかと言えば曇りに映える髪色
※短歌連作サークル「あみもの」第十四号より改稿、追加