寡黙な男(ひと)とおしゃべりな息子
廊下やリビングで出会うたび
日焼けした肌と、頼もしい筋肉で抱き上げてくれる
海の男。
朝は市場へ繰り出し
おいしい魚を仕入れては
私たちにおいしいごはんを振舞ってくれる。
建具が壊れたら直してくれて
カーテンレールも直してくれて
こどものおもちゃも直してくれる。
そんな
シェアハウスの大黒柱である彼が
シェアハウスを出る、という。
…そっかぁ。
そんな別れもあるのかぁ。
彼の名前と息子の名前は、1文字目がおなじ。
さん、か、ちゃん、で呼び分けられていた。
息子は、とてもかわいがってもらっていた。
ちゃんばらとか、ケンカとか、そんな体当たりではなくて
まるごと、息子の存在を受け止めている感じが
とても温かく感じられた。
シェアハウスには、いろんな人がいる。
そのいろんな人との壁に、食事や修理を通して
通路を開いてくれる。心強い存在だった。
お別れ会の日
息子はなぜか、上機嫌だった。
理由を聞くと、今日は自分の誕生日会だと思っていたらしく
いろんな人に触れ回っていた。
そっかー。名前近いから、勘違いしたかー。
苦笑しながら、ちがうよ、と諭す。
みんなでごはんを食べたあと
ケーキが登場。
こどもたちに囲まれて、ろうそくを消す。
翌朝
彼は大勢に見送られることなく
みんなに告げていた時間より少し早めに
車に乗って去ってしまった。
あとに残ったのは
彼が直してくれた家具たち。
いなくなっても、支えてくれているなぁ。
と感じた。
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