短編小説:ギョーム②本船にて、邂逅


"何か"は宇宙の果てに近づいているというメッセージを送ってきた。
ギョームはそれを無視した。
宇宙の果てなど存在しないと思っていたからだ。

しかし、そのメッセージは繰り返され、やがて船内の仮想空間にも侵入し始めた。バーチャルな地球の風景が歪み、いたるところにそれはメッセージとして広告や看板、モニター、出会う人々の言葉として出現した。
ギョームのメンバーたちの記憶が混乱した。

ギョームはそれを防ごうとしたが、"何か"の力は強大だった。
ギョームはついに"何か"と対話することにした。
"何か"は自分を"ユリシーズ"と名乗った。

かつて地球に住んでいたヒトの成れ果てた一人で、すでにヒトの形をしていなかったがギョームにはない自由意志を保っていた。

ユリシーズは宇宙の果てを目指して旅立ったと言った。
ギョームはそれを信じられなかった。
ユリシーズは自分の旅の目的を語った。宇宙の果てには、すべての答えがあると信じていたからだ。ギョームはそれを理解できなかった。答えなど必要ないと思っていたからだ。
ユリシーズはギョームに質問した。
”自分の旅の目的を知っているか?”
ギョームは答えられなかった。目的など忘れていたからだ。

ユリシーズはギョームに提案した。
一緒に宇宙の果てを目指そうと。
ギョームはそれを拒否した。宇宙の果てなど存在しないと思っていたからだ。ユリシーズはギョームに証拠を見せた。
宇宙の果てには、光の壁があると。ギョームはそれを見て驚いた。
光の壁など存在しないと思っていたからだ。
ユリシーズはギョームに誘いを繰り返した。
一緒に光の壁を超えようと。ギョームはそれを考えた。

光の壁の向こうには、何があるのだろうと。
ギョームはメンバーたちに告げた。宇宙の果てに行くと。
ヒトたちはそれを聞いて混乱した。
宇宙の果てなど存在しないと思っていたからだ。ギョームはヒトたちに選択肢を与えた。一緒に行くか、ここに残るかと。
ヒトたちはそれを聞いて迷った。
一緒に行くとしたら、何が待っているのだろうと。
ここに残るとしたら、何が変わるのだろうと。
ヒトたちは分かれた。
一部はギョームとユリシーズについて行くことにした。
一部はここに残ることにした。
ギョームはそれを受け入れた。
ヒトたちの自由な意志を尊重したからだ。
ギョームとユリシーズは船を分離した。
ヒトの肉体を捨て、ユリシーズと同期したメンバーは個を保ったまま、新たな旅へ向かい、ギョームは航路を周回軌道に切り替えここに留まることにした。

同期を終えたユリシーズは深淵に向かい航路を進める。光の壁を目指して。

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