【感想】ラジオドラマ『かつて海だった街』
※ネタバレ注意
別所で大昔に書いた感想をそのまま持ってくるのは忍びなかったので、改めて鑑賞し、加筆して書いております。
とにかく堺雅人さんの滑舌が良くて、終始とても聞き取りやすい。台詞だけでなく、描写も含めて堺さんが語っているんだけど、台詞部分と描写部分の発声の仕方が違うので分かりやすい。
舞台出身の役者らしい、耳障りの良い、通る声ですわ。
内容は、星新一のショートショートのような、90年代に流行ったSFジュブナイルらしい作風だ。海を埋め立てて造られた人工島、完全AI制御によるモノレール、どことなく感じるディストピア的な雰囲気。
物語の中盤から、恋人のリヨコが喉に違和感を覚え、クライマックスでは声帯を白い膜が覆い、全く喋れなくなるのだが、その病の進行と共に明らかになっていく物語の真相―――街が海に沈んでいるから深海魚がいるわけではなく、環境汚染によって白い膜が覆った異形と化した魚が発生しているという現実。魚に起こっていることが、恋人のリヨコにも起こっている。
ハッキリしない結末に消化不良になる人もいるだろうけど、私としては締めの余韻として悪くないものだと思う。
環境破壊がテーマである以上、むやみに明るく解決して終わっては物語の印象が薄くなって教訓にするにもパンチが弱くなるだけだし、明らかなバッドエンドで終わるには、主人公たちはまだ若い。
物語のはじまりでは、受験勉強に嫌気が差していたコウ。しかし、この経験を通じて、今後はリヨコの病気を治すために、環境改善も含めた研究に携わっていく―――みたいな、救いのある想像が出来る余地がある終わり方なので、私はこの結末は気に入っています。
だって彼女は声を失っただけで、まだ生きているし、そんな彼女とずっと一緒にいるという結末なんだもの。