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【感想】ラジオドラマ『かつて海だった街』

※ネタバレ注意
別所で大昔に書いた感想をそのまま持ってくるのは忍びなかったので、改めて鑑賞し、加筆して書いております。

【あらすじ】
 海を埋め立てて造られた人口島に住むコウは、受験勉強に明け暮れる日々に疲れて部屋を抜け出し、恋人のリヨコを連れてシンボルタワービルに忍び込む。展望室から見えた景色には、街の夜景だけでなく、夏だと言うのに季節外れの雪が降っていた。
 図書館であの雪の正体がプランクトンによる『マリンスノウ』であることを突き止めたコウは、滅多に人が来ない公園で、恋人のリヨコにそれを伝えようとする。しかし運悪く、会社をサボって休憩しようとやってきた見知らぬ男と居合わせてしまう。
 雑談の流れから男がふと『雨が降って地面が冠水すると、この街は島ごと沈没してしまうんじゃないかってワクワクする』と口にする。コウはその言葉に驚きながらも、『自分もまったく同じことを考えていた、けれど自分の場合は不安に感じる』と気持ちを吐露した。
 数日後、「夕刊見た?」とリヨコが慌てた様子で伝えてくる。訝し気に理由を尋ねると、先日居合わせた男が自殺したと新聞に載っているらしい。リヨコは『彼が人生を悲観して死ぬようには見えなかった、一緒に死の真相を調べないか?』とコウを誘った。

作:藤井青銅
音楽:野田雅巳
演出:平位敦

出演
コウ:堺雅人
リヨコ:増田未亜
オギシマ:祖父江進
エネルギーセンターの所長:前田昌明
謎の男:逆木圭一郎
熱帯魚ショップの店員:夏川さつき
図書館の職員:岡田未来

放送日:1999年9月11日
制作:FMシアター/NHK


とにかく堺雅人さんの滑舌が良くて、終始とても聞き取りやすい。台詞だけでなく、描写も含めて堺さんが語っているんだけど、台詞部分と描写部分の発声の仕方が違うので分かりやすい。
舞台出身の役者らしい、耳障りの良い、通る声ですわ。

内容は、星新一のショートショートのような、90年代に流行ったSFジュブナイルらしい作風だ。海を埋め立てて造られた人工島、完全AI制御によるモノレール、どことなく感じるディストピア的な雰囲気。

物語の中盤から、恋人のリヨコが喉に違和感を覚え、クライマックスでは声帯を白い膜が覆い、全く喋れなくなるのだが、その病の進行と共に明らかになっていく物語の真相―――街が海に沈んでいるから深海魚がいるわけではなく、環境汚染によって白い膜が覆った異形と化した魚が発生しているという現実。魚に起こっていることが、恋人のリヨコにも起こっている。
ハッキリしない結末に消化不良になる人もいるだろうけど、私としては締めの余韻として悪くないものだと思う。

環境破壊がテーマである以上、むやみに明るく解決して終わっては物語の印象が薄くなって教訓にするにもパンチが弱くなるだけだし、明らかなバッドエンドで終わるには、主人公たちはまだ若い。
物語のはじまりでは、受験勉強に嫌気が差していたコウ。しかし、この経験を通じて、今後はリヨコの病気を治すために、環境改善も含めた研究に携わっていく―――みたいな、救いのある想像が出来る余地がある終わり方なので、私はこの結末は気に入っています。
だって彼女は声を失っただけで、まだ生きているし、そんな彼女とずっと一緒にいるという結末なんだもの。

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