(小説)砂岡 1-6「はじまり」

 「よし!帰ろう!」

山頂に行くことはあきらめた。森川くんも、わたしがこうして明るく振る舞っていれば、逆に吹っ切れるのでないか。という漠然とした希望的感覚はあった。わたしと森川くんは似ている。だからこそ。森川くんを振るためだけにここまで電車で来て、登ってきたのだ。(正解!)

そう割り切ってしまうと、妙に合点がいったような気がした。
こんなものは「気がすれば」十分だ!

森川くんは自宅に閉じこもり、泣いていることだろう。
それはもう、いい。

 ・・・ チエ・ムプリを下るのはとても早かった。

感覚的にも早かったが、それ以上に。

突然だった。
駅に溢れる登山者たち。

ホームは3階にあって、そこからは片側5車線の高速道路が見える。すべての車線が封鎖されていた。そこを同じ色、同じ型の車両が列を作って走る。

それらの黒い車両たちは「入雅方面」の矢印を掲げる緑色の道路標識の下をくぐってゆく。

わたしのリズムではとても追いつくことのできない何かが静かにこの国の中を脈打っているのを感じた。

すべては突然に変わってしまうのだ。

あの大砂嵐のように。

青く広がる空は、半分。もう半分はすでに、真っ暗な砂に覆われている。

そして、ここにも暑さがやってきた。


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