見出し画像

(小説)solec 3-7「補給」

「敵の対空兵器が衛星攻撃によって無くなった今、制空権はこちらにある。ヤシガニが上陸した今、こちらの勝ちは決まりだろう。せいぜい3日かな。そうだろ、ロレンツォ君。」トゥラーティは聞く。

「僕がこいつら相手に三日もかけると?6時間で十分だ。それに、第2射のヤシガニはすべて物資輸送に使うつもりだから。戦闘では使えないんだよ。多脚戦車はさ。あんたらの考えた隠し兵器とやらはさ。」

「武士道ちゃん。ダイヤモンド艦隊は着いてる?」
「チッ。お見せしましょうか?提督殿。」
今の舌打ちは気にしない。
「頼むよ。僕たちが用意していたのは何も美しい作戦やミスターアリストテレスだけじゃない。」
そう言うと、レーダー上にいくつもの点が現れた。3列に並ぶ計40隻の船が突如千島列島沖に出現したのだ。

「い、一体これは・・どこから?うちの艦隊か?」
「違うね。維持隊の艦隊だ。といっても、難民救済プログラムが進行中の国がよこした艦隊だ。完全なソレク連合じゃない。」
「だが、どこから?なぜ今まで姿を表さなかった?」
「姿なら最初からあったよ。本当にお偉いさんは頭が固いんだね。今、ヒントを出したじゃない。完全なソレク連合じゃない。」
「まさか。」
「そう。「色」を変えたのさ。チェスばっかりする連中にはわからないだろうね。日本には将棋というチェスよりも数倍楽しいゲームがある。」

 晴れると同時にエンドレスで行われる衛星からの空爆。雲に覆われた頃、西日本側の状勢は危機的であったが、今、篭城を解き、東へ進み始めた。
「空からの支援は万全だ。君たちは安心して道路を作ってくれればいい。」
雲が晴れてから2時間。不意を突かれた日本は瞬く間に崩れていった。

 もともと物資もまともに与えられていない大陸部の連中との戦闘はさらに速く進行して、各都市を物資を載せた車両が通過するだけで、あとは地元の軍勢が処理をしてくれる。実際、軍隊はほとんどいらなかった。適切な航空支援とトラック輸送でことは足りた。

「戦争は力で敵をねじ伏せることではない。敵に敗北という器を用意することだ。」

インドネシアなどの島嶼部にはもともと例の雲がなかったため、ヤシガニの第1射がもう動いており、ほとんどを制圧した。マレー海峡は九州、沖縄、フィリピンの雲を処理したあとに向かった維持隊の戦闘機群によって開かれた。

「こちらアレックス。小松基地は叩いた。次は?」

「はい!オリオン小隊様、おつかれさまです!次はまた補給して、1時間休憩してください。そのあと、富士山へ向かってくださいね。東京にも四葉の陣形のようなものがあります。次はそれを取り除きます。そうすれば、もう日本は丸裸同然ですよ!」

「そうか〜君、若いね。初めて聞く声だけど。」
また一方的に切れた。忙しいのかな。

「富士山か〜。」伸びをして肩をほぐす

「あんなに美しい山に基地を建設するなんて、信じられません。」

「立地は最高だろうよ。周囲に高い山もないし、物見には最適だろうよ。」

雲が晴れてから4時間。休憩って言ったって飛行機の中じゃ気が抜けないなぁ。初老にはきつい。

「おつかれ様。君たちオリオン小隊のおかげで地上の道路建設は順調だよ。そこから30km南へ言ったところに仮設の飛行場を手配した。君たちだけの、という訳にはいかないけれど、そこで休んでくれ。補給の用意は無いから、それは補給は空でやってね。その後に降りてくれ。地に脚が着くだけでも違うと思うから、ぜひ利用してくれ。」

全く、こんな場所で休憩が貰えるだけでも幸せなことなのに。

 補給を終えて、飛行場へ降りる。アレックスはぼーっと昼過ぎの平和な空を見上げる。日本の秋空は美しく、太陽の光がちらちらと顔を照らす。いつも座席下に入れてある干し芋をパクパクと食べる。(おやっさんからは緊急脱出のときお菓子が飛び出すからかっこわるいぞと言われるが知ったことか。)ソレクの飛行場を出たのが昨日の夜で、そのあとウラジオストクの手前で逃げて、爆撃機追ってソレクに戻ってきて、なんか変なやつがプティ・クーデターやって、また東まできて、赤いドイツ趣味を落として、あとはチマチマした爆撃を繰り返して、今、ここにいると。その間、補給は5回暗いだっけか。武装の変更は6回かな。今日はよく働いたな。敵の戦闘機はみんな衛星が蒸し焼きにしてくれるから便利になったもんだ。こっちのミサイルもずいぶん性能がよくなったし。ドグファイトもできるんだぜ、この機体。・・・。眠ろうとも思ったが、手元の時計を見ると午前6時。時差ボケで眠れないのは、歳のせいであろうか。おならが出た。

 ・・・隊長。・・・小隊長。

「アレックス小隊長、起きてください!あ、ま〜た干し芋食べてますね。もう富士山行きますよ!」

「お、おう、お前らはなんか食ったか?」

「なんか地上部隊のひとたちがヘリでカレー運んできてくれたみたいで、それをみんなで食べてました。小隊長も呼んだんですけど、寝てるみたいだから。」そういえば、ロマンチック坊やからカレーのいい匂いがする。

「おいしかったか?」地上部隊の作るやつはみんなまずそうだ。
「おいしかったですよ!インドから本場のシェフが来てるみたいで、チキン、ほうれん草、マトンに3種類食べ比べちゃいましたよ。日本の米も最高でした!」
「おーい、ロマン!小隊長は起きたか!?」
ロベの声だ。
「はーい!」
「なら行くぜ!」

管制塔がないので、上空で旋回しながら待機している空中管制機がその役割を担っている。

ロベ機がタクシングする。
「行きましょうか、アレックス小隊長!」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?