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(小説)solec 3-6「赤い空中要塞」

「アレックス小隊へ、私はヒイラギ。まず日本へ。」
「あいよ。もしか君が武士道ちゃん?」
もう通信が切れてる。少人数のメンバーで世界中の部隊に指示するのは恐ろしく大変なことだろう。


かくして、プチ・クーデターはすぐに成功した。


「ヤシガニ、第2射発射シーケンス入りました。発射2分前。」
「静止軌道上の攻撃衛星を準天頂軌道に移動完了。これで間髪入れずに敵を蒸し焼きにできます。」
「よし、宇宙研のみんなありがとう。みんな戦争は素人なのに期待されすぎてたんだよね。大丈夫。それでいい。」
「さて、維持隊の戦闘機群へ、まずは日本を丸裸にするためにまずその分厚いコートを脱がそうか。特殊な積乱雲を発生させているのは、モニター上に映っている計8機の未確認物体だ。詳細は近くで見てみないとわからない。けど、そう難しい相手じゃないはずだ。敵の戦闘機も応戦してくるだろうが、そいつらは簡単に堕とせる。気を付けてほしいのは本丸の武装だ。必ず分析してから近づくように。」
「了解。」
 日本海上空、ソレクからリモート制御された補給機が裏返しになった戦闘機に張り付き、空中で給油と兵装交換を行う。

「SAMが来ないぞ!やっほー。」
「どういうことだ。」

「まだわからない。もしかしたら、分厚い雲を作る装置と日本にジャミングをかけている装置は別物なのかもしれない。ソレクの「急な変化」に対応できずにひとまずディフェンス状態なのかもね。だったらチャンスだ。」


「はーい。補給完了ー。」


 雲の中に入ると強烈なジャミングがかかる。ソレクとの通信が完全に途絶する。無人機は最初からいない。有人機ばかりだ。ロレンツォの言う通り、これでは敵の地対空ミサイルはおろか、俺たちを探知するのも困難だろう。接近戦になりそうだ。今やほとんどの無人機から無用の長物として取り外されていた20mmが役に立つ時が来た。

前方に巨大な影が見える。左右に手で合図する。(3機1組で組んでいる。)見えたようだ。後方に下がり、ついてくる。

先行していた味方の機体が爆発して粉々になった破片の中からパラシュートが広がって行った。

見ると、ドイツ好みの空中要塞が姿を表した。

 大きく旋回して距離を取る。目標を捕捉。ピーと鳴るが、ミサイルは積んでいない。下部に設置された解析器が解析を始めた合図だ。
ロマンチック坊やも右隣から偵察中と合図してくる。
それにしても、デカイ。先の超音速爆撃機もそうだが、日本にこんなものがあるとは・・。全く諜報部隊は何をやってたんだか。少しだけ軍に同情する。
 ロマンチック坊やとその後ろのやつがオッケー合図をしたので、一度雲の上へ出る。ジャミングがひどいので前に出た偵察機から出るアームを鼻先で受け取る。給油の時と同じだ。くっつくと声が聞こえる。三機が縦列にくっついている。

「機銃18門、電磁バリア、広域ジャミング、そしてこの分厚い雲。みんなあいつが出しててる。」もうひとりのやつが説明している。
「電磁バリア?そんなもんがあるのか?」

アレックスの解析でもそれらは映ってはいたが、アレックスにはそれらを捉えるだけの頭脳がなかった。
「広域ジャミングの副産物のようです。あのドイツ趣味のデカぶつの半径480mは危険ですよ。」
「へぇ。やっぱドイツ的なものを感じるよな。あんでそんなもんを日本が持ってんだ?」

「知りませんよ!そんなの!」2人が叫ぶ。
話している間に別の3機1組が次々と解析を終えて上がってくる。
「やっぱみんな考えることは同じなんだな。」
「あの中でドッキングする方が頭おかしいでしょ。」
もうひとりのやつが指摘する。

周りの機体がドッキングを終え、下へ戻る。
「みんなもう終わったのか?」

「小隊長が質問ばかりするのが長いんですよ。」

「データを見ただけじゃわからない小隊長のために説明すると、取り敢えず弱点はタイミングです。480mまで近づかなければ、バリアには引っかかりません。僕らの機銃の有効射程は普通7.8km。視界は悪いですが、まぁ、でかいので適当に打っても当たるには当たるでしょう。問題は敵の機銃掃射です。前のいくつかが最初に撃墜されたとき実は僕たちも危なかったんですよ。とにかくあの機銃に空間的死角はありません。ですが、それぞれ30秒置きに2秒間止まります。おそらく、砲身を冷やすためでしょう。」
「給弾じゃないのか?。」
「なんでもいいです。とにかくその2秒間だけ、あの要塞の480mまで近づくことができます。それが、あれの弱点です。」
なんだロレンツォの言う通り、簡単なことじゃないか。

3機はアームを切り離し、雲へ降りる。
「どこを狙う?」

小隊長は2人に聞くが、誰も答えてはくれない。今更ながら3人が思っていた。他のみんなは「デカ物のどこを狙うのか」を上で話し合っていたのではないか?と。不安なのか2人ともアレックスに着いてくる。こういうところは可愛い。
 影が見えてきた。まずはタイミングだ。ひとつの機銃にみんなが群がっていた。その先にあるのはコックピットと見られる建築物だ。
 その次に混んでいるのはエンジン周り。みんな30秒置きに取りかかっている。もはやここまで来ると工事だ。墜落するまでエンドレスに攻撃を浴びせる。それだけのこと。戦争を土木工事だと呼んだ昔の将軍を思い出す。

「さて、オリジナリティで行こうか。」
アレックス小隊長の3人組は装備にオリジナリティがあった。みんなは機銃以外の武装を持っていなかったが、彼らは500ポンドをぶら下げている。(よくハリネズミ相手にそんな武装を選べたものだ。)
アレックス機はコックピットもエンジンもないデカ物の中央直上でくるくる回っている。2人には何をしているのかがわかったが、他の機体には理解できないだろう。
 
いや、そのぶら下げているものに気がつけば別だが。

アレックスの直下の機銃が止まる。それと同時に一気に加速しながら降り、500mぎりぎりで爆弾を投下、機銃による攻撃にさらされながらも見事に回避しながら戻ってきた。

そして、重力に沿って落ちる爆弾は見事に右翼の付け根に当たった。その瞬間、激しい爆発が起こる。一斉にすべての機銃が止まり、右翼からいろいろなものが零れてゆく。そして、もう一度爆発。今度はコックピットが吹き飛んだ。

「ヒュー!もういっちょ!」

もうひとりのやつが気が狂ったように自分の爆弾を落とす。だが、外れた。そのまま、爆弾は分厚い雲の中へ消える。

 そういえば、どさくさに塗れて通信が回復しているようだ。
「ロマンチスト坊や!当てろよ!」ロベの声が乱入した。彼もいたのか。
「はい!がんばります。」
彼は一体、何をがんばるのだろう。もう機銃掃射もジャミングもバリアもない。陽光も差し込みはじめている。

 光が差して初めて気がついたのだが、このドイツ趣味には真っ赤な塗装がされていた。そういえば、暗がりでは赤が見えにくいんだっけ?深海魚とか赤いんだよね。光が差された赤い要塞は格好の的だった。

「行きます!」

どんどん高度を下げる要塞。海面すれすれでロベの爆弾が届く。そして今日一番の爆発を見せ、火炎が上がる前にくしゃくしゃになったコピー用紙のように沈んだ。

「よし、弱点を他のチームにも知らせよう!」

「その必要はない。8機目を撃墜。君たちが最後だよ。」

祝福と言わんばかりに日本各地に次々と降り注ぐヤシガニの光が見えた。
雲の解けた雨上がりの日本列島が顔を出した。

レーダーには無数の的が出現した。

「これで、形勢逆転だな。」


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