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安全を大切にする文化をつくるには

 医療事故調査か、責任追及や補償のためではなく、再発防止のため、というのは、どうも分かりにくいようだ。

 何か失敗した人を罪に問わなくてよいのか、そんな馬鹿なことはない…。

 そう思う人がいるのは分かる。

 そこは誤解だ。補償や罪は別立てで行うべきということであり、免責とは違う。

 しかし、日本では補償が罪とリンクしているので、どうしても罪の多寡を調べる調査が行われてしまう。

 そういうことを回避するために、無過失補償制度が作られた。

わが国では医療事故に基づく被害の救済は、原則として過失責任制度によって処理されている。いわゆる「過失なきところに責任なし」である。民法第709条に基づく不法行為裁判でも、行為者の過失とその結果との因果関係の存否が責任の判断基準になる。これは民法の債務不履行責任についても同様であり、この基本理念は今後とも継続して適用されると思われる。

 一方で、多くの医療事故では医学の進歩とともに患者側が医師の過失を立証することはきわめて困難であり、また医師側としても過失とは考えられないが、期待に反した結果に終わった場合に何らかの補償が考えられてよいという感情は否定できない。また、裁判となれば長期にわたり、その間被害者の救済は棚上げされてしまうことになる。

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 残念ながら、医療事故調査の専門家でさえ、再発防止のための自己調査という国際的原則を誤解しており、「誰かのせい」で終わらせ、安全な医療環境が達成されていない。

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このマガジンでは、“めずらし医“である病理医の中でもレア中のレアなフリーランスの病理医からみた病理診断、医学界の話、研究者になることに挫折し学士編入学を経て医師になった者から見たキャリアの話、そして「科学ジャーナリスト賞」受賞者の視点から見た科学技術政策の話の3つの内容を中心に綴っていきます。創刊以来毎日更新を続けています。

フリーランスの病理医兼科学ジャーナリストである榎木英介が、病理、医療業界や博士号取得者のキャリアパス、科学技術と社会に関する「機微」な話題…

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