7月は栞
7月が終わろうとしている。
1年、12ヶ月の中で7月が一番好き。7月は梅雨が明けるまでは暗く、明けてからは何かが弾け出したかのように暑い暑い夏が始まる。朝の数時間だけが唯一の救いかのように少し涼しく、何もかもが潤っていて明るい。日中はこれでもかと強い日差しがアスファルトを照らし、跳ね返ってくるジリジリした全てにクラクラする。それすらも愛おしい。そのジリジリは私たち人間の作り出した副産物であり、決してジリジリ自体に悪意は無いのだから。夕方になるとずっとこの時間が続くのかと勘違いしてしまいそうなほど、夢のような夕焼け。青色、水色、白色、ピンク、赤のグラデーションは私たちの作り出す美しさ全てより逸脱した芸術。そして暖かくぬるい夜がくる。
7月は私が毎年歳を重ねる月でもある。
だから、尚更好き。毎年歳を重ねるごとに1年前の7月は、数年前の7月はと、まるで人生に挟んできた栞を辿り開くかのように思い返す。誰と過ごしたか、どんな気持ちでいたのか、何に悩んでいて、何に幸せを感じていたのか。その全てを思い返すと同時に、7月の暗くて明るい、激しく優しい、鮮やかで淡い、そして儚くて永遠である全ての時間を思い出す。
電気を付けなくても明るい部屋。青々しい街中の木々。サラサラと揺れる木漏れ日。湿気のある川沿い。生い茂る雑草。土の匂い。蝉の鳴き声。それらを背景にして生きる私。
悲しい時は憂鬱な雨に合わせて涙を流し、楽しい時は晴天と共に笑い、眠れぬ夜はぬるい夜風に触れ、早々に昇る朝日と共に眠る。永遠を信じたい時には夕焼けに溶ける淡い雲を眺め、時の流れを知りたい時には青空に浮かぶ入道雲の移り変わりを追いかける。
生命の潤いと渇き、葛藤と静寂を一瞬にして全て届けては去っていく、自由で規則正しい7月に。今年も別れの代わりに愛を送る。