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紳士探訪記Vol.1

 
「紳士になりたい。」


そう思いたった男は、昼夜一人悶々としていた。

実家で甘やかされ早21年。
劇的でも喜劇的でも悲劇的でもないこの半生を振り返り若干の後悔と恥辱の念が沸いてでてきたのである。

 こんな人生から早く脱却したい。

 子どもとも大人とも言えぬこの状況から抜けだし、いち早く大人へと、紳士へと昇華せねばならないと決意したのである。

 しかしこの男、「紳士になりたい」とは言いつつも、「紳士」というものを知らない。
なんの気なしに使ってきた言葉ではあるが、紳士とはどうあるのか、紳士にはどうなれるのか皆目見当がつかないのだ。

 そこで男は小さい小さい脳を振り絞り、知能と文化の破壊エンジンであるGoogleにその答えを求めた。

 だが出てくるもの出てくるものすべて小手先だけのテクニックばかり。
やれ「女性にドアを開けろ」だの「デート代は男が払え」だの、紳士の上澄みをすくったような有象無象ばかりだった。

 男はスマホ片手に深くため息をついた。
どうしたら紳士になれる。早くあの絶対領域へ…サンクチュアリへ踏み込みたい。ただ…どうしたら。

 男はふたたびスマートフォンに目を落とす。画面にはTwitterのTLが映し出されていて、日々惰性で量産されるtweetが流れていた。

 ただひとつだけ、目につくものがあった。ある映画の広告でそこにはある1人の俳優の姿があった。

 これだ……これに違いない……

その男は

マッツ・ミケルセン

 誰もが認めよう、世界を代表する紳士。
紳士of紳士。有無を言わさぬ紳士。紳士でないなら何になると言わんばかりの紳士。
来世は信じないが、もし来世があるならこの人に決まり!!!!最高・最強のイケおじである。


 男は確信した。

そうだ!!ミケルセンと自分を比較しよう。足りない部分を補えば紳士に近づける1歩になる!と。


 ここで大まかにマッツ・ミケルセンの紳士を抽出していく。

【マッツ・ミケルセンの概要】

  • 俳優で元ダンサー

  • 語学堪能でデンマーク語の他にドイツ語、英語、スウェーデン語なども話せる

  • 謙虚さで“北欧の至宝”と称される

  • 身長183cm

  • 仕事へのストイックな姿勢

  • Etc……

もうここまでで涙がでそうだ。
何一つ勝てる要素がない。21年間何をやってたのか自分に問いただしたくなってきた。

圧倒的な差に打ちひしがれ、もうすり減り無くなりかけている臍を噛みながらふと気がついた。



 私もあのGoogleの情報のように、紳士の上澄みをすくった有象無象になってるではないか。



 安直な答えにすがり、簡単な方法だけを望み、楽して紳士になろうだなんて考えていた。
私はただただ赤面した。紳士にはまだなれそうにない。少しでもかわっていかなければならない。

紳士になりたい

男はふたたびそう唱え、紳士への道を模索し始めた。



 男の紳士への旅はまだまだ続く。

 

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