ショートシナリオ「思い出は花と咲き」

皆さん、こんにちは。

だいぶ久しぶりの更新になりました。映画感想は続けているのでまた書きたいです。

実は今年に入ってから脚本の勉強を始め、習作として短編シナリオの制作なんかも行うようになったのですが、発表する機会も場も特に無いため、いっそnoteやブログ内で発表してしまおうと思い、全文を掲載することにしました(Amebaブログでも投稿してます)。

本文はWordの200字詰め原稿用紙設定で20枚。映像にすると1枚あたり30秒×20枚=10分程度のもので書く、「20枚システム」というのがあるようで、それを採用しました。

テーマは参考に買った教則本(柏田道夫「小説・シナリオ二刀流奥義」言視舎)の中で目に留まった「花火」。

花火と言えばコロナ禍の影響で昨年はサプライズでの打ち上げが行われたりと、例年とは異なる形で目にすることになった方も多いかと思います。

作品内でイメージしたのは、私が住んでいる神戸市で、高校時代に行った「みなとこうべ花火大会」です。

個人的な花火大会の思い出としては、大学時代にラジオ番組を作っていた頃、土曜の夜に収録を終えて箕面から神戸に帰っている最中祭りから帰る人混みに駅や電車の中で潰されそうになったことぐらいしかない僕ですが、今回はそういった私怨は脇に置いて、ちょっと切ない話を書いてみました。

この記事を見つけて読んでいただけた方、感想等あればコメントを是非ともよろしくお願いいたします。

                                                         

タイトル『思い出は花と咲き……』

                                                          

人物紹介

久川伴也(21)大学生。最近失恋した。

新条文(29)伴也と相席をする女性。

       左手薬指に指輪をしている。

早希(21)写真と動画のみ。伴也の元カノ。

紡(20)伴也の後輩

店員A(ビアガーデンの店員)

店員B(りんご飴屋の店員)


                                                                     

〇港(夜)

「202×年納涼夏祭り」の看板。花火大会のタイムスケジュールが書かれている。

屋台が開かれ、多くの人で賑わっている。花火が上がり、それを楽しむ人々。

〇ビアガーデン(夜)

同じく花火を見つつ食事を楽しむ人々。

2人席に座る久川伴也(20)。

花火を見た後人々に目線を移し、向かいの席にスマホをかざす。

画面には「早希」と書かれた画像フォルダ。

その中の動画を開くと、丁度向かいの席にいる早希(21)の姿が映る。1年前の日付である。

早希『かんぱーい!えへへ』

スワイプして次の動画。これも1年前の日付で、早希が屋台で買ったりんご飴を食べている。

早希『(飴を味わい、数秒経ってから笑いつつ)ちょっと何撮ってんのー!』

その後も祭りや花火を楽しむ早希の画像を次々と見ていく伴也。その表情は暗い。

不意に店員(店員A)が声をかけてくる。

店員A「すみません」

伴 也「(スマホをしまいつつ)はい」

店員A「当店ただいま混雑しておりまして、お一人のお客様に相席をお願いしているのですが……」

伴 也「……ああ、大丈夫ですよ」

店員A「(目線を伴也から外して)それではお客様、こちらへどうぞ」

新条文(29)、伴也の向かいに座る。

文  「よろしく。あたし新条文。文でいいよ」

伴 也「……久川伴也です。よろしくお願いします」

店員A、伴也の方に瓶とグラスを置き、

店員A「こちら、ご注文のビールになります」

文  「(店員Aに)ねえ、これ何ビール?」

店員A「スタウトになります」

文  「ふーん。じゃあ、同じのお願い」

店員A「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」

店員A、その場を去る。

伴也、文のラフな格好から目を反らすが、

文  「ねえ、よかったら一緒に飲まない?」

伴 也「えっ」

文、伴也の瓶を開けグラスにビールを注ぎながら、

文  「なんか君、訳アリっぽいというか、1人でシケた顔してるからさ」

伴也の前に酒の入ったグラスが置かれた直後、店員Aが文の分を持ってくる。

文、同じように瓶を開けながら、

文  「そんな顔じゃ、酒も花火も楽しくない!……なんてね」

文、酒を入れたグラスを持ち上げ、

文  「はい、分かったら乾杯!」

伴也、おずおずとグラスを持ち上げ、

伴 也「か、乾杯」

2つのグラスがチン、と鳴る。

    ×  ×  ×(時間経過)

テーブルの上にそれぞれ3本ずつ、空になった瓶が置かれている。

伴也、少し酒を残してグラスから口を離す。

伴 也「あぁ~!」

文  「それで気付いて別れちゃったんだ」

伴 也「そうなんですよ!去年はまた来ようね、なんて言ってたのに!秋にはもうそいつとヤッてたみたいで!」

文  「それで元カノのことが忘れたくて、1人でここに来たと」

伴 也「……まあ、そんなとこです」

文  「へえ~」

文、酒を飲み干してグラスを置く。

テーブルに肘を置き、両手を頬に当て

文  「なんだか聞いてて懐かしくなってくるなあ、若者のそういう恋バナ」

伴也、文の左手薬指に指輪があるのを見つけ、納得したような表情をする。

少しの沈黙。花火の音が響く。

文  「(手をテーブルに置き)ねえ、折角だしもっと近くで花火見ない?」

伴 也「え?」

文  「このまま飲み明かすのもいいけどさ、どうせならいっそ自分だけの思い出にしちゃいなよ」

伴 也「……」

伴也、花火で彩られた空を見つめた後、酒を一口に飲み干し席を立つ。

〇屋台通り(夜)

出店が立ち並ぶ中をゆっくりと歩く伴也と文。

2人が目の前に来たところで、りんご飴屋の店員(店員B)が呼び込みをする。

店員B「いらっしゃい!りんご飴今なら1個200円、おいしいよー!」

伴也、足を止め屋台に近づき、文もそれに追従する。

文  「どうした?あ!りんご飴!」

店員B「お、いらっしゃい!」

伴 也「1つ下さい」

文  「あたしも1つ!」

〇港・夜

屋台通りを抜け、人混みがいっそう激しくなる。

文、左手に持ったりんご飴をボリボリと齧る。

文  「ん~、美味し~! ……ん?」

伴也、りんご飴を袋も取らず見つめる。

文、飴の棒の先を伴也の頬に当てる。

文  「ていっ!」

伴 也「(不意を突かれ)んっ」

文  「(不満げに)また浮かない顔。吐くとか言い出さないでよ?」

伴 也「言いませんよ……。ただ、ちょっと思い出したというか」

文  「?」

伴 也「(若干の笑みをたたえながら)あいつ、りんご飴好きだったな……って。去年も、5個ぐらい1人で平らげてて」

文、伴也の言葉を聞いて少し目線が下がり、暗い顔になる。

伴 也「文さん?」

文  「いや、あたしもちょっと思い出しちゃって。甘いの苦手だったんだけど、あいつがこれ好きだったからさ……」

伴 也「あいつって?」

文  「死んだあたしの旦那」

伴 也「え……」

花火の音だけが響く。

文  「事故でね。子供っぽい奴だったけど、そこがかわいかったなぁ」

文、再びりんご飴を齧る。苦い顔で彼女の薬指の指輪を見つめる伴也。

文  「(雨を呑み込み、一息ついて)けどさ、別に忘れなくてもいいんじゃない?」

伴 也「え?」

文  「そりゃあ別れ方は最悪だけど、悪い思い出ばっかりでもないんでしょ?その彼女」

自分のりんご飴を見つめる伴也。

文  「それに……」

スマホの着信音が鳴る。

文  「ちょっとごめん」

文、ポケットからスマホを出して電話に出る。

文  「もしもし……、えっ、熱⁉ご飯は?……うん。吐いたりはしてない?……分かった、今から行くから、病院連れて行ってあげて」

通話を切る文。伴也は呆気に取られている。

伴 也「あの、今のって……」

文  「(焦りながら)ごめん!旦那から子供が熱出したって……」

伴 也「でも旦那さんって……」

文、伴也の指摘に一瞬固まる。

文  「……あー、実は、さ、前の旦那が死んでから、再婚したんだ、あたし」

そこで薬指の指輪を見せつける文。

文  「……だから、ほら!(両腕をバッと広げ)覚えててもやっていける!」

必死な様子に思わず笑う伴也。

文  「……やっと笑った。じゃあね、もう行かなきゃ」

伴 也「はい、お疲れ様です」

人の流れに逆らい、走り去っていく文。

笑顔を保ったまま、視界から姿が消えるまで見守る伴也。

〇岸辺(夜)

花火に近い、一番人が集まる場所。

フィナーレに向け、勢いを増す花火を見つめながら、スマホを取り出す伴也。

周りが花火を撮る中、「早希」の画像フォルダを開き、その中のファイルを1つずつ開いては「削除」ボタンを押して消していく。全てのファイルを消した後、スマホをしまう。

最後の大花火に観衆が湧く中、りんご飴を袋を取ってゆっくりと齧り、声も上げず佇む。

〇駅前・朝

季節は冬。厚着に身を包んだ人たちが歩いている。

スマホを見ている伴也。SMSで「もうすぐ着く」というメッセージが届いている。

改札を通り、紡(20)が走ってくる。

紡  「お待たせ!」

合流する2人。横に並んでそのままどこかへ歩いていく。

                                                          

……はい、最後まで読んでいただけたでしょうか。

テーマから、花火がドーンと打ち上げられて消える様子を連想して、「何かが盛大に散る/終わる」話を書こうと思い、アイデアが浮かんでから一晩で書き上げた話なのですが、このアイデアを知人に打ち明けた際

「なんでそんな暗い話考えたの……?」

と、素で返されてしまいました。

なんだかんだ短い話で主人公の心の葛藤を描きたかったので、自然と重いものになってしまったという感じです。

着地は希望の持てるものにしたのですが、もうちょっと明るい話も書けるようになりたいと思っています。

それでは、今回はここまで。

お相手は、たいらーでした。

またお会いしましょう。

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